平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #145

「天のマネジメント」~天を相手に正々堂々と仕事する

 

佐藤一斎といえば、吉田松陰や西郷隆盛に大きな影響を与えた幕末の儒者である。彼の考えに基づいて明治維新がなされたと言ってもよいほどだが、その一斎の言葉に「毀誉褒貶は、人生の雲霧なり。この雲霧を一掃すれば、すなわち青天白日」がある。「青天白日」つまり心に一点もやましいことのない境地に至ることが重要だという。正しい気持ちをもって生きれば、何も恐れることはない。しかし、周りの評判を気にしてしまうと、自分の判断に迷いが生じる。それゆえ、毀誉褒貶は人々を戸惑わせる雲霧のようなものであるというのだ。
一斎は、歴史の流れについても「天の意思も人間世界のあり方も、刻一刻と変化している。それゆえ、歴史の必然的な流れをとどめることはできない。しかし、人間の力ではその流れを早めることもできない」と述べている。彼は、つねに天を意識していた。
その思想は西郷隆盛に受け継がれ、西郷は「敬天愛人」を座右の銘とした。ある日、陸軍大将であった西郷が、坂道で苦しむ車夫の荷車の後ろから押してやったところ、これを見た若い士官が西郷に「陸軍大将ともあろう方が、車の後押しなどなさるものではありません。人に見られたらどうされます」と言った。すると、西郷は、「馬鹿者、何を言うか。俺はいつも人を相手にして仕事をしているのではない。天を相手に仕事をしているのだ。人が見ていようが、笑おうが、俺の知ったことではない。天に対して恥じるところがなければ、それでよい」
他人の目を気にして生きる人生とは、相手が主役で自分は脇役である。正々堂々の人生とは、真理と一体になって生きる作為のない生き方である。天とともに歩む人生であれば、誰に見られようとも、恥をかくことはない。
東洋思想を象徴する言葉に「天人合一」がある。天、つまり宇宙と人生とは別のものではなく一貫しているという意味である。宇宙には「道」という根本的な法則性があって、宇宙の一員である人間も、そこを外れては正しい人生も幸せな人生も歩むことができない。
それに対して、西洋では天、つまり自然と人間とを対立するものととらえてきた。人間は自然の一部というより、自然は人間が征服すべきものという考え方である。その結果が地球の環境破壊である。
西郷隆盛は明治以後の日本人で最も人徳、人望のあった人物と言われているが、すべてのマネジメントに関わる人々も、天を相手に正々堂々と仕事し、生きたいものである。