平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #085

「贈のマネジメント」~心をつかむプレゼントをする

 

異性・同性にかかわらず多くの人の心をつむ者には、いわゆるプレゼント魔が多い。
よく知られているのは、かのユリウス・カエサル。彼は多くの愛人がいたが、借金をしてまで、自ら選んだ高価な品を彼女たちに贈るので、評判だった。名家出身という肩書きも、輝かしいキャリアも、特別な美貌もなかった若き日のカエサルだが、すらりと背は高く均整のとれた肉体と、生き生きとした黒い眼と、立居振舞いの争えない品位は、彼を、同年輩の若者たちに混じっていてもひときわ目立つ存在にしただろう。それに加えて、アイロニーとユーモアをふくんでの彼の会話も愉しいものだった。高価な物など贈らなくても、女たちにモテただろう。しかし、贈物をもらえば、女性は嬉しく思う。カエサルは、モテるために贈物をしたのではなく、純粋に喜んでもらいたいがために贈ったのである。
作家の塩野七生氏は『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル』に、「女とはモテたいがために贈物をする男と、喜んでもらいたいたい一念で贈物をする男のちがいを、敏感に察するものである」と書いている。
日本人に絶大な人気を持つ坂本龍馬も、贈物をするのが好きだったらしい。彼はいつもよれよれの紋服を着て、鼻水、鼻くそを袖にこびりつけても平気だった男だったが、旅が好きで全国各地に赴き、郷里の姉をはじめとした家族や周囲の人々にさまざまな品を送っている。ときには、京で大変高価な品を求め、女性たちにプレゼントしたようである。
また贈物ではないが、龍馬は旅館や料理屋などで働く下働きの人々にもよくチップを渡した。これは龍馬と並ぶ維新の人気者・西郷隆盛も同様で、チップをくれるから料理屋などでも大人気で、道行く小さな子どもの手にも小遣いを握らせたという。
私は、贈物やチップなどは心のあらわれであるから、高価なものでなくとも良いし、低額でも構わないから、なるべく心がけるようにしている。金沢や沖縄には毎月出張で出かけるが、空港で金沢名物の餡ころ餅や沖縄名物のチンスコーを山ほど買い、会社に戻ったらみんなに配る。社員の子どもに会ったら、必ずお小遣いを渡す。
別に金品でなくともよい。出張先からは、よく絵葉書をいろんな人に出す。誕生日を迎えた社員や仕事で成果をあげた社員などにメッセージを書いて絵葉書を出すと、こちらが恐縮するくらい本当に喜んでくれる。ひそかに、私ほど絵葉書を書く人間はいないのではないかと思っている。