平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #089

「満のマネジメント」~顧客の満足だけが企業を存続させる

 

ドラッカーは、企業の二つの基本的機能はマーケティングとイノベーションであるとしたが、ここではマーケティングについて考えたい。ドラッカーいわく、マーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」と問う。
マーケティングにおいては、顧客ほど大切なものはなく、その満足が企業の存在基盤であるとすれば、顧客が自らの満足を得るための選択肢として同列に位置づけたとしても、顧客の選択を巡って競争せざるを得ないのである。その意味で、顧客は王様なのだ。しかし、企業が売っているものは、顧客満足そのものではなく、顧客満足の手段である。
ドラッカーは言う。企業が売っていると考えているものを、顧客が買っていることは稀である。もちろんその第一の原因は、顧客は商品を買っているのではないということにある。顧客は、満足を買っている。しかし、誰も、満足そのものを生産したり供給したりはできない。満足を得るための手段を作って、引き渡せるにすぎない。
商品を買うのは、それを消費、利用することによって得られるベネフィット(便益)を通して満足を得んがためである。顧客としては満足を得られればそれでよいのだが、満足は現実の売買取引の対象にならないから、商品を購入することによって、そのベネフィットという形で入手するのである。つまり、そのための手段として商品を購入するのだ。
たとえば、化粧品について考えてみると、レブロンを名だたる巨大企業に育てあげた天才的経営者チャールズ・レブソンは「工場では化粧品を作る。店舗では希望を売る」との名言を残した。なるほど、女性が化粧品を買うとき、実は希望を買っているのである。
この考え方は、セオドア・レビットやフィリップ・コトラーといったマーケティング界の巨人たちも共有している。消費者が本当に買うものは、健康な歯であって、歯ブラシではない。穴であって、ドリルではない。娯楽であって、CDやDVDではない。清潔な衣料であって、洗濯用洗剤ではない。コミュニケーションであって、携帯電話ではないのだ。
そして私が経営する会社は「義のマネジメント」でも述べたが、結婚式や葬儀ではなく、人の道を売っていると確信している。経営者は、自社が本当に売っているものは何かを常に問わねばならない。顧客の満足を満たさなければならない。結局は、お客様の心を満たすこと、それがマーケティングの本質である。