平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #037

「表のマネジメント」〜表現と表情で人の心をつかめ

 

リーダーには表現力が求められる。かのユリウス・カエサルは豊かな表現力の持ち主だった。「ローマは一日にしてならず」や「すべての道はローマに通ず」など、ローマ関連の名言は少なくないが、カエサル自身も多くの名言を残している。いわく、ルビコン河をわたる時の「賽は投げられた」とか、元老院に戦闘を報告する最初の言葉である「来た、見た、勝った」とか、暗殺時の「ブルータス、お前もか」とか、カエサルにはコピーライターの才能があったとしか思えない。ドラッカーが「政治家、経営者を問わず、リーダーとは、言葉によって人々を操る者である」と語っているが、その代表格こそカエサルなのだ。
当世随一のスピーチの名手として知られる永守重信氏は、相手に合わせて表現することが重要だと言う。話の内容、表現方法、話す時の態度も変えていく必要がある。内容については、相手のキャリアに応じて次のようにアレンジするという。まず、一般社員には危機意識30%、夢やロマン70%。主任クラスには危機意識50%、夢やロマン50%。部課長クラスには危機意識70%、夢やロマン30%。そして役員クラスには危機意識90%、夢やロマン10%という具合である。
一般社員向けには危機感をあおるような内容はできるだけ避けて、夢の持てるテーマを中心に話を進めていく。表現もわかりやすい言葉を選んで、笑顔も絶やさない。
表現とともに表情が重要である。『孫子』に「軍に将たるの事は、静にして以って幽なり」とある。軍を率いる時の心構え、つまりリーダーの心構えは静であり幽であれ、と言っているのだ。幽とは、計り知れないほど奥が深いという意味である。わかりやすく言うと、味方がピンチに陥った時に動揺を顔に表わすようでは、リーダーの資格はない。組織がピンチになれば、部下は真っ先にリーダーの顔色をうかがう。そんなとき、リーダーがあたふたと動き回ったり、緊張しすぎたりすれば、部下はいっそう動揺する。常に冷静沈着であってこそ、部下の信頼は得られるのだ。
リーダーに最もふさわしい表情とは、笑顔を置いて他にないだろう。笑顔のもとに人は集まる。笑顔など見せる気にならない時は、無理にでも笑ってみることだ。アメリカの心理学者ウィリアム・ジェイムズが言うように、動作は感情に従って起こるように見えるが、実際は、動作と感情は平行するものなのである。だから、快活さを失った場合は、いかにも快活そうにふるまうことが、それを取り戻す最高の方法なのだ。