平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #031

「読のマネジメント」〜本、メール、ハガキ、人の心を読む

 

私は、とにかく毎日、読んでいる。
何を読むか。まず、本を読む。会社にいるときは、読書は一切しない。もちろん自宅の書斎では読むが、主に読むのは年間の約三分の一を占める出張の移動時間とホテルの部屋にいる時間である。とにかく読めるときは読む。テーマパークとかラーメン店などの行列に並んでいるときも本を読んでいるので、人からあきれられる。
別に速読法などを学んだわけではないが、読むのは早い方で、最近数えてみたら年間に500冊近くは読んでいる。それも定規と赤のボールペンで傍線を引きながら読むのである。私はとにかく読書によって、人生のさまざまな岐路をくぐり抜けて来たように思う。社長に就任してすぐ読んだのは、ドラッカーの『ネクスト・ソサエティ』であった。非常に感銘を受け、『ハートフル・ソサエティ』というアンサー・ブックまで書いたほどだが、その後、ドラッカーの著書はすべて読破した。
40歳になる直前、『論語』を読み、これまた感ずるところ大で、一気に40回も読み返した。
世界のクロサワの名画に「七人の侍」と「用心棒」という作品があるが、私には「七人の用心棒」がいる。すなわち、ピーター・ドラッカー、フィリップ・コトラー、マイケル・ポーター、安岡正篤、中村天風、松下幸之助、稲盛和夫の七人である。孔子、孟子、王陽明といった超大物は別格として、何か経営上で困った問題が発生したら、この七人の本を読めば、たいていの問題は解決する。
私は本を読むときに、その著者が自分ひとりに向かって直接語りかけてくれているように感じながら読むことにしている。高い才能を持った人間が、大変な努力をして勉強をし、ようやく到達した認識を、二人きりで自分に丁寧に話してくれるのだ。何という贅沢だろうか!だから私は、昔の日本の師弟関係のように、先生の話を正座して一人で聞かせていただくのだ。七人の用心棒は、七人の心の師なのである。
もちろん、七人の用心棒以外の本も読む。もともと哲学や文学には目がないし、歴史書や伝記なども努めて読むようにしている。最近では、中国の書物を漢文で読むことが多い。
幕末維新までのわが国の教育に大きな力となったものは、漢籍の素読、儒学の教養であった。なかんずく中国の歴史とそれに登場する人物とが、日本人の人間研究に大きく役立ったのである。『史記』『十八史略』『三国志』『資治通鑑』『戦国策』などは当然読むべき教養書だったのである。
あの福沢諭吉ですら『左伝』十五巻を十一度読み通して、その内容はすべて暗誦していたという。これが福沢の人間を見る目をつくったので、漢籍でまず鍛えられた頭脳で、蘭学や英語をやったから眼光紙背に徹する勢いで、たちまち西洋事情を見抜いてしまったのである。中国は広大な大陸に広がる天下国家で、異民族による抗争の舞台であり、その興亡盛衰における権力闘争は、それ自体が政治のテキストであり、これに登場する人物は、大型、中型、小型、聖人もあれば悪党もあり、そのヴァラエティさは万華鏡の如くである。
まさに人間探求、人物研究の好材料を提供してくれるわけで、日本人は中国というお手本によって人間理解の幅を大きく広げ、深めてきたと言える。
プロイセンの鉄血宰相ビスマルクに「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉があるが、西欧の人々は主にローマ帝国の衰亡史などを参考に人間理解をしてきた。生物のなかで人間のみが、読書によって時間を超越して情報を伝達できるのだ。人間は経験のみでは、一つの方法論を体得するのにも数十年かかるが、読書なら他人の経験を借りて、一日でできる。つまり、読書はタイム・ワープの方法なのである。
人生を商売にたとえてみると、すべて仕入れと出荷から成り立っている。そこで問題となるのは仕入れであり、その有力な仕入先が読書なのだ。私は自分が読んでよいと思えば、社員にもどんどんその本を紹介する。わが社が発行している毎月の社内報でも「仕事に役立つ、社長のおススメ本」というコーナーがあるし、互助会の会員情報誌でも本の紹介をしている。
何を読むか。社内メールをはじめ、各種メールを読む。日々の実績速報、金融機関の預金状況、社内通達の内容、毎朝届けられる膨大な情報を一気に読む。そして、会議では業績報告書や財務諸表を読む。真剣に読めば、会社の未来が読めてくる。友人からの私的なメールは心のオアシスとなる。
何を読むか。「お客様アンケート」を読む。冠婚部門、葬祭部門に分かれて全国から数え切れないほど多くのアンケート・ハガキが社長である私のもとに届く。すべてのハガキはお客様から当社へのラブレターととらえ、一枚ずつ一字一句をじっくり読ませていただく。内容がクレームの場合、お客様に不愉快な思いをさせた申し訳なさと、大事なことを教えていただいた有難さで、ハガキに向かって手を合わせる。逆にお褒めの言葉をいただくこともある。「サンレーさんにお願いして、本当に良かった」というような言葉に触れると、嬉しくて涙が出る。
グッドコメントにせよバッドコメントにせよ、お客様からのメッセージを読むたびに当社の使命が思い起こされ、心の底から「もっとお客様のお役に立ちたい」という強い想いが生まれてくる。私は、ハガキを通して、お客様の心を読んでいると思っている。