喜
「喜のマネジメント」~サービスとは、喜びを与えること
ある人が松下幸之助に、商売成功のコツを尋ねたところ、松下は次のように答えた。
「私は、商売のコツの一つは、サービスに徹することにあると思っているが、このサービスとは、言葉をかえて言えば、人に喜びを与えるということである」
商売をしている者はもちろん、すべての人がサービス精神に欠けてはいけない。友人に対しても、自分の会社、商店、社会に対しても、大いにサービスする。国と国との間でも、サービスを怠る国は落伍する。落伍しないまでも、人気を落とす。廊下で会っても、ちょっと会釈して通るのがサービスであり、だからサービスというのは正しい礼儀でもある。
このサービスを、費用はあまりかけずにできるだけ多くする。そこに商売の一つのコツがある。たとえば、笑顔でお客様に接する。
これは金もかからず、他人に喜びも与えられる格好のサービスである。そんな手近なところに、案外、商売の大切なコツがあるのではないかと松下は語っている。
サービスというのは、本来相手を喜ばせるものであり、そして、またこちらにも喜びが生まれてくるものである。相手が喜んでくれれば自分も嬉しい。それは人間の自然な感情である。そういう喜び喜ばれる姿の中にこそ、真のサービスがあると言えよう。
本田宗一郎も「私はたえず喜びを求めながら生きている。そのための苦労には精一杯に耐える努力を惜しまない」と語った。しかし、どんな喜びでもいいというわけではなく、社会正義に反していたり、人間としてもモラルに反したものは駄目である。たとえば、犯罪者が犯罪に成功した時の喜びなどがこれに当たる。人間が苦労に耐えながら追求する喜びは、必ず正義でなければならないし、他人の犠牲を必要としてはならないし、同時に他人の喜びに通じるものでありたい。自分の喜びを追求する行為が、他人の幸福への奉仕につながるものでありたいと、本田は語った。
松下幸之助と本田宗一郎。戦後の日本を代表する実業界の二大スターがともに「喜」というものを重視していたことに私は感銘を受けるが、中村天風と安岡正篤の二大先哲も「喜」を何より重んじていた。天風は「精神的歓喜こそは自己の大本体に立ち帰り、宇宙霊と合致しようとする順序の第一であり、そして宇宙霊は歓喜に溢れる人々にのみ恵みを与えたまう」とまで述べているし、安岡は人生をわたる秘訣とは「喜神を含む」こと、つまり心の中にいつも喜びを抱くことであると考えていた。間違いなく、「喜」は個人や会社の成功への入口なのである。