平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #052

「仕のマネジメント」~部下に奉仕すれば、成果はあがる

 

鉄道ガード下の居酒屋などで、酔ったサラリーマンがチューハイか何かを片手に後輩にクダを巻いている。「どうせ俺たちなんか、会社の歯車だからよー!」との言葉が聞こえる。まことにありふれた光景だが、このような光景にふれると、私はいつも腹が立ってくる。会社員が会社の歯車なのは当たり前の話ではないか。部下だって上司だって、いや社長だって会社の歯車である。
仕事であれスポーツであれ、組織を構成する個々人は、すべて歯車なのだ。大リーグのイチローも、サッカーの中田英寿も、みんなチームの歯車ではないか。でも、彼らは単なる伝達歯車ではなく、チームを動かす駆動歯車である。私は毎年の入社式の際に新入社員に向けて、「あなた方は会社の歯車です。でも、自ら会社を動かすような歯車になって下さい」と訴えかける。会社人は、組織の歯車であることを強く自覚し、歯車に徹することによって、会社のなかで光り輝くのだ。
そして、上司とは部下に仕える歯車である。最近、「サーバント・リーダーシップ」という言葉がよく聞かれるようになった。上司は部下の成功に奉仕すべきだとするリーダーシップ・モデルである。古代から「優れたリーダーは、自らに仕える者に仕える」という知恵は存在した。歴史上、天性のリーダーとされた人々の記録を見ると、そこから「リーダーの権力と権限は下の者から与えられる」という真理が導き出されてくるのである。
「顧客の時代」である現代、顧客と直接的に接する現場スタッフの存在が重要になってくる。すると、リーダーシップの核心は、いかに組織メンバーたちを自分に従わせるかということから、いかに顧客接点に従事する人々に貢献するかという方向へと移行する。
最近、アメリカの地方代理店から世界第3位の旅行会社へと急成長したローゼンブルース社は「顧客第二主義」という一見ショッキングな経営理念を持っている。では、何が第一かというと、社員である。「企業は顧客でなく、社員を第一に考えるべきだ」という基本理念によって、同社はわずか30年で実に売上げ300倍にまで成長した。
「顧客はそれをどう感じているのか?」といぶかる人もいるだろう。企業にとって社員が第一でも、社員にとってお客様はもちろん最優先である。ローゼンブルース社は、アフタヌーン・パーティーやランチタイム学習といった社員を重視する数々の具体策をもって、顧客サービスにおいて確固たる評判を築いた。
リーダーの仕事とはサービス業であり、上司は部下の成功に奉仕すべきなのである。