平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #073

「清のマネジメント」~清掃によって、人の心を美しくする

 

会社再建の名人として有名な日本電産社長の永守重信氏が「倒産する会社の共通点」の1つとして、工場の清掃が行き届いていないことを挙げている。永守氏は清掃というものに注目し、1975年ごろから日本電産の新入社員は1年間トイレ掃除をするという習慣ができあがった。
しかも、ブラシやモップなどの用具は一切使わず、すべてを素手でやることになっているという。便器についた汚れを素手で洗い落とし、ピカピカに磨き上げる作業を1年間続けると、トイレを汚す者はいなくなる。これが身につくと、放っておいても工場や事務所の整理整頓が行き届くようになってくる。これが「品質管理の基本」であり、徐々に見えるところだけでなく見えないところにも心配りができるようになれば本物であるという。
掃除について、江戸時代の狂歌師である大田蜀山人が「雑巾を 当て字で書けば 蔵と金 あちら福々 こちら福々」という歌を詠んでいる。福々は「拭く拭く」である。この精神を哲学にまで高め、「掃除福々」を唱えている人物が、イエローハットの創業者で現在は相談役の鍵山秀三郎氏である。鍵山氏は「人の心の荒み」を減らしたいという願いから事業を興したが、掃除に関しては第一人者として知られる。雑巾がけ一つにしても、力を込めて少しでもきれいにしようという気持ちが必要であり、鍵山氏は、できれば「あちら福々 こちら福々」となるような拭き方がよろしいと述べている。
掃除の思想といえば、「祈りの経営」で知られるダスキン創業者の鈴木清一が思い浮かぶ。鈴木は、およそ掃除ほど尊い仕事は他にないと言い切った。なぜなら掃除をして、美しくして、他人を「いい気持ちだ」と喜ばせることのできる仕事は、昔から金儲けとしてではなく、修業として実践されてきたぐらいだからである。
掃除は美しくする仕事であるが、そのなかでも一番大事なことは「心を美しくする」ことである。美しい心とは人間を幸福にする「心の豊かさ」を指す。鈴木は、その生涯を通じて、「私たちは幸せだ。なぜならまず働けるという健康に恵まれている。しかも私たちがお掃除をすることによって、じぶんでもすぐその効果がはっきりわかる(汚れていたところが、ぐんぐんきれいになる)。こんなあざやかな働き甲斐のある仕事が他にあるだろうか」と、清掃の思想を人々に訴え続けた。