平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #118

「創のマネジメント」~横に跳ぶ創意が、大いなる事を成す

 

リーダー、それも創業者には、創造的発想や創意というものが求められる。動物行動学者の竹内久美子氏は、「発想を変えて、思い切って跳びなさいと言われたら、みんな前に跳ぶことしか考えない。前に跳ぶのは誰でもできることで、横に跳ぶことが必要なのだ」と述べている。
元東京都知事の石原慎太郎氏はこの話にいたく感心し、創意というものの本髄はそこにあると思ったという。石原氏いわく、横に跳ぼうと思って跳んだわけではないけれど、恐らく、ふと思いついたことというのは、横に跳んでいるのではないか。それができる人が本当の創業者になれるのではないか。ちなみに、その話に「なるほど!」と、膝を打って感心したのは将棋の米長邦雄氏ただ一人だったという。
ソニーの創業者である井深大は、かつて、芝浦の工場でジーンズを履いた若い社員が手作りのテープレコーダーをポケットに入れて音楽を聞きながら働く姿を見た。なるほど、音楽とは座ってじっと聴くだけではなく、作業の邪魔にならなければ仕事をしながらでも聴きたいだろうし、ただ歩くよりも音楽を聴きながら歩く方がリズミカルに歩けるのではないか。そう、井深は考え、あの伝説のウォークマンが誕生したのである。これは井深が経営者として横に跳んだということだろう。
また、カラオケは世界に誇る日本の発明だが、考え出したのはクラリオンの創業者である小山田豊である。昭和49年の秋、海外駐在員たちを引きつれて水上温泉で宴会を開いたとき、呼んだ芸者が年増ばかりで、しかも歌を歌おうにもろくに三味線も弾けない者が多かったという。小山田は落胆しながらも、ふと、芸者の代わりに伴奏の機械があれば面白いと発想し、それがカラオケのアイデアの元になった。小山田も横に跳んだのだ。
歴史上、大いなる事を成した人は、みな横に跳ぶ創意の人であったと言える。坂本龍馬も横に跳ぶ人だった。彼の独創性は、藩を超えた「日本」、ビジネスとしての海運と海軍を矛盾なく統一させた「海援隊」、「五箇条のご誓文」の原案となる「船中八策」、そして「薩長同盟」や「大政奉還」などの巨大なスケールのコンセプトやアイデアを次々に思いつき、実現していったのである。
カエサルも、すごかった。彼はなんと、ヨーロッパを創ったのである。現在の西ヨーロッパの都市の多くは、カエサル以後のローマ帝国時代に生まれた植民都市を起源としている。ガリア遠征をはじめとして横に跳び続け、ローマ防衛線を構築し続けた結果、カエサルはヨーロッパを創造したのである。なんと、スケールの大きなクリエイターであろうか。
みなさんにも、自らの仕事に照らし合わせて、自分なりの「横に跳ぶ」ことを考えてみていただきたい。そこから、思いもよらぬ創意が生まれてくるかもしれない。