平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #087

「会のマネジメント」~一期一会とは、真実の瞬間である

 

私が経営する会社はサービス業だが、お客様と接する瞬間の重要性を社員に説くとき、「一期一会」という言葉をよく使う。一期一会とはもともと、茶人としても知られた井伊直弼が好んで行なった茶道の心得である。
すなわち、一生涯にただ一度会うことかも知れぬという心情で、風炉の前に主客端座する。そのとき、今生においてこれ限りかも知れぬ、人命というものは朝露の如きものである。朝会って、夕べは計ることができない。ここで会えばまた会うことは人間として必ずしも期することができない。今生にこれを限りと思う気持ちになる。そこで茶を点てると、人間はふざけた心、雑念というものをことごとく脱落して。真心が表われる。その真心を重んじたのが、一期一会の精神なのである。
私の父であるサンレーグループの佐久間進会長は、小笠原古流という茶道の師範でもあるが、一期一会の精神を接客の精神として何よりも重視し、「一球入魂」を、もじって、「一客入魂」の言葉を常にサービスの現場スタッフに向かって吐いてきた。
さて、一期一会の思想は、最近になって形を変え、サービス・マネジメントの世界に登場した。「真実の瞬間」である。これは、自社のサービス品質が、お客様に評価される決定的瞬間のことだ。1985年、ヤン・カールセンという人物が、赤字の続くスカンジナビア航空(SAS)の建て直しに社長として入ったとき、サービスの向上がなければ生き残れないことを感じた。そして、すべての従業員に「真実の瞬間」という言葉を説いた。
きっかけは、彼がSASで機内食のサービスを受けたとき、汚れた皿が1枚あるのを見つけたことだった。彼は汚れた皿を見ているうちにいやな気分になり、「この飛行機はエンジンの整備もいいかげんではないのか」と思い、そこから「もしかすると、この飛行機は墜落するのでは」と非常に不安な気分になったのである。
予約電話を取ったとき、チケットカウンターで発券する際、廊下ですれ違ったとき、食事を出した時などなど、1日5万回以上も、お客様と航空会社の誰かが接触する瞬間、すなわち真実の瞬間があるという。そのとき、その会社のサービス品質がお客様に伝わり、瞬時に評価される決定的な瞬間なのである。
1回でもさえない瞬間があれば、サービスの評価はさえないものとなり、お客様を失うことにさえなる。顧客満足とは、1回1回の真実の瞬間の積み重ねの結果だ。ミスは許されない。真実の瞬間の公式は、100―1=0であり、決して99ではない。だからこそ、接客サービスという仕事は、一期一会の茶道にも通じるほど奥が深く、真にプロフェッショナルな仕事なのである。