平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #071

「数のマネジメント」~会計によって会社の実態を知る

 

私は2001年に社長に就任したが、そのころ、アカデミー作品賞に輝いた「ビューティフル・マインド」という映画を観た。ノーベル賞を受賞した天才数学者ジョン・ナッシュの生涯を描いた作品だが、これを観てから数学の魔力にとりつかれ、多くの数学書を読破した経験がある。
数学と聞いただけで嫌な顔をする人もいるが、数学ほど面白いものはない。関ケ原の合戦の翌年に生まれたフェルマーの最終定理が証明されたのは約360年後の1995年。有史以来で最高の数学者と評されるガウスが天才ぶりを発揮していたのは、江戸時代の謎の浮世絵師・写楽と同時期だし、ピタゴラスやユークリッドは紀元前の人物である。受験勉強とは無縁の世界で遊んでみると、数学は俄然面白くなる。
「万物は数である」とはピタゴラスの言葉だが、考えてみれば、あらゆるものは数字に置き換えられる。一人の人間は年齢、身長、体重、血圧、体脂肪、血糖値などで、国家だって人口、GDP、失業率などで表わされる。そしてもちろん企業も売上、原価、利益、株価といった諸々の数値がついてまわる。
企業における数値は会計という部門に集約されるが、「会計がわからなければ真の経営者になれない」と喝破したのは、稲盛和夫氏である。氏は著書『稲盛和夫の実学』で会計の重要性を力説している。私たちを取り巻く世界は一見複雑に見えるが、本来は原理原則にもとづいたシンプルなものが投影されて複雑に映し出されているものでしかない。これは企業経営でも同じである。会計の分野では、複雑そうに見える会社経営の実態を数字によってきわめて単純に表現することによって、その本当の姿を映し出そうとしているのだ。
もし、経営を飛行機の操縦に例えるならば、会計データは経営のコックピットにある計器盤に表示される数字に相当する。計器は経営者たる機長に、刻々と変わる機体の高度、速度、姿勢、方向を正確かつ即時に示すことができなくてはならない。そのような計器盤がなければ、今どこを飛んでいるかわからないわけだから、まともな操縦などできるはずがない。
だから、会計というものは、経営の結果を後から追いかけるだけのものであってはならないと稲盛氏は言う。いかに正確な決算処理がなされたとしても、遅すぎては何の手も打てなくなる。会計データは現在の経営状態をシンプルにまたリアルタイムで伝えるものでなければ、経営者にとって何の意味もないのである。