平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #066

「危のマネジメント」~ゆでガエルになってはならない

 

危機感の重要性を考える時に、よく引き合いに出されるのが、ゆでガエルのエピソードである。それは、次のような実験だ。
カエルを2匹取ってきて、1匹を水に入れた鍋に入れる。その鍋を徐々に温める。温度の変化が徐々であるので、カエルは何の不安も待たずに、心地良く鍋の中にうずくまっている。カエルはいつでも逃げようと思えば逃げ出せるのに、温度が上がっていっても、何の変化意識も持たない。そして高温になっても気づかず、やがて沸騰した湯の中でゆで上がって最後は死んでしまう。
今度は、もう1匹のカエルを持ってきて、その沸騰した湯の中へ入れる。当然、そのカエルは、熱さに驚いて、必死で鍋から飛び出してしまう。そのカエルは火傷をするかもしれないが、死なずにすむのである。
この単純な実験は、私たちに非常に大きな教訓を与えるとともに、注目すべき暗示を投げかけている。すなわち、前者は迫り来る危機に気づかずに死に、後者は反射的に危機を感知して生き残る。企業経営においても、危機を事前に感知して生き残ることが重要なのは言うまでもない。
人間が生まれた瞬間から死というゴールに向かって歩みはじめるのと同じで、企業も創業した時から倒産に向かって走り出すようなものだと言えるだろう。今や、「上場企業だから大丈夫」「老舗だから安心」「銀行は潰れない」といった一昔前の常識は通用しない。まさに『平家物語』の書き出しにある「盛者必衰のことわりをあらわす、おごれる者は久しからず」という言葉そのものの時代である。
企業のリーダーは常にこうした危機感を持ち、それを部下とも共有しなければならない。
危機のサインは至る所で読み取ることができる。あのタイタニック号も、前方の氷山が危険だという警告を無線で受けたり、航海時間の新記録のために無理なスピードを出していたなど、さまざまなサインがあったにもかかわらず、結果としてそれを危機管理に活かせず、悲惨な沈没事故を起こしてしまった。
そして大切なのは、危機のサインを感知したとき、リーダーは悲観的になってはならないということである。危機感と悲壮感は違う。単に「この業界に未来はない」などと騒ぎ立てるだけでは悲壮感は生まれても、危機感は育たない。「大変な時代になったが、これだけのことをやれば大丈夫だ」という生き残るための明確な指針をリーダーが示してはじめて、危機感をバネにすることができる。指針のない悲壮感で、人を動かすことはできない。