行
「行のマネジメント」~行動は知識を完成し、感情を生む
心学を開いた王陽明は、本当に知るということは創造することであるとして、「知は行の始めなり。行は知の始めなり」と説いた。「知」というものは行ないの始めである。「行」というものは「知」の完成である。これが一つの大きな循環関係をなすのだ。
陽明は有名な「知行合一」を唱えた。未来に向かっての行動の決定に対しては、人間が学としてとらえられる、言語化された知だけでは不十分である。禅で教える「不立文字」のごとく、個々の専門家がスペシャリストとしての経験を活かして、人間の能力全体としてとらえた言語化されない知、つまり「暗黙知」を加え、知行合一として奥行きを究めることが重要である。
マネジメントにおいては、個々のリーダーは、この言語化された知を学んだうえに、日々の苦労や経験からつかんでいる暗黙知を加えて、自分なりのリーダーシップを構築することが求められる。
そして、何よりも実行が大切である。ビジョンもある。戦略もある。人材もいる。にもかかわらず、成果が上がらないのはなぜなのか。それは、企業や組織に実行の文化が根づいていないからに他ならない。「実行は細かい現場の仕事であり、リーダーの威厳にふさわしくないものだ。リーダーはもっと大きな問題に力を注ぐべきだ」という考え方は完全に間違っている。実行とは、リーダーの最大の仕事なのであり、企業文化の中核をなさなければならないのだ。
「人間は悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのである。恐ろしいから逃げるのではなく、逃げるから恐ろしいのである」これはジェームズ・ランゲ説として知られる学説だが、意識的に堂々とした態度で行動していると自信が生まれてくるし、積極的に行動していると精神が高揚してくる事実を、私たちは体験として知っている。
行動が感情を生む、これが仕事や人生で成功する秘訣である。人生についての探究心は本質的に感情に支配されている。欲望や期待なども、みなすべて感情によって裏づけられている。人間はみな、成功、友情、平和、愛、幸福を自分の中に求めるが、それは結局、感情的なものなのだ。けれども、ほとんどの人は、自分が求めるものが何であるかを理解していないために手中に収めることができない。感情というものが行動によって沸いてくることに気づいていないのである。