平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #060

「先のマネジメント」~先頭に立たなければ、人は動かない

 

リーダーとは先頭に立って人々を率いていく人である。先頭に立って、というのが大切だ。「率先垂範」という言葉があるが、部下や周りの者にやらせ、自分は何もしないでは、人は絶対についてこない。
上杉鷹山と言えば、江戸中期の米沢藩主だ。破産寸前だった藩の財政再建を見事に成し遂げた名君だが、「リストラの神様」として知られている。しかし、鷹山は大いなる率先垂範の人でもあった。
鷹山の施策として注目されるものは、節倹と農村復興である。ともに目新しいものではないが、他藩では徹底されず失敗に終わることが多かった。他藩で節倹が徹底しなかったのは、家中の侍や領民に節倹を命じておきながら、藩主やその家族は特別扱いされているケースが多かったからである。鷹山は、食事は一汁一菜、衣服も木綿で通した。
農村復興においては、普通は現場の責任者にすべてを任せ、藩主はタッチしない。しかし、鷹山は違った。自ら現場に足を運び、本人も鍬をふるっているのである。士・農・工・商の身分制度が厳格な江戸時代に、武士が農業経営に携わるということは考えられなかった。「武士も農民と一緒に従事しろ」と命令されても、農村復興事業に本心から加わってくる者はほとんどいなかったはずだ。それが、鷹山が藩主自ら鍬をふるい、全家臣に決意のほどを示したことにより、米沢藩の農村復興は成功したと言える。
「してみせて 言ってきかせて させてみる」は鷹山の言葉だが、それに改良を加えたのが山本五十六の「やってみて、言ってきかせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」という有名な言葉がある。
戦国時代において、少ない布陣で大軍に向かっていったような場合、総大将が先頭になって敵陣に突っ込んでいって勝利を収めるというようなケースがあった。永禄3年(1560年)の桶狭間の戦いにおける信長は、まさにその代表例である。総大将が後方にいて、ただ命令を下すだけでは士気があがらず、ここぞという時には総大将自らが刀や槍をふるわなければ人はついてこない。逆に言えば、ここぞという戦いで、自ら先陣となって突っ込んでいけるような武将こそ、真のリーダーと言えよう。
私もかつて社長になる5年くらい前、ホテルの総支配人を務めたが、常に率先垂範を心がけた。毎日、宴会営業で企業などに足を運び、宴会場の片付けでは誰よりも多くの椅子を運んだ。大晦日には、おせち料理も配達した。よい思い出になったし、自分は現場の経験を積んでいるのだという自信も得た。