平成心学塾 経営篇 人は、かならず「心」で動く #015

「真のマネジメント」〜哲学なきリーダーには志も宿らない

 

異色の哲学者であった中村天風は、哲学を研究し、考えて考え抜いたときに、やがてこの宇宙の造物主の心には「真」「善」「美」以外にはないと悟った。そして「真」とは偽りのないまことであるという。
真なるもの、真理を追究する人間の営みこそ哲学に他ならないが、戦後60年を経過した今の日本に哲学がないという欠陥が明らかになってきた。政治家にも経営者にも哲学がない。政治には首尾一貫した思想、哲学が必要である。大衆に迎合して格好よさだけを求め、思想、哲学のない政治は必ず行き詰まり、そして国民に大きな禍を与える。経営者にしても、大半の人は哲学を持っておらず、企業のスキャンダルは絶え間なく起こっている。
ところが、真理の追究をめざす経営者がまったくいないわけではない。しかも「経営の神様」と呼ばれる人物が偉大な哲学者でもあった。松下幸之助は「昭和の経営の神様」と称され、稲盛和夫氏は「平成の経営の神様」と称される。しかし、それ以上に彼らは経営者としてのみならず、人間としての成功をもめざしているという共通性がある。二人の経営、人間、人生、自然、そして宇宙の真理に至るまでの深い洞察と見識には、まさに哲人経営者と呼ぶにふさわしいものがある。
松下幸之助は言った。宇宙に存在するすべてのものは、つねに生成し、たえず発展する。万物は日に新たであり、生成発展は自然の理法である。人間には、この宇宙の動きに順応しつつ万物を支配する力が、その本性として与えられている。人間は、たえず生成発展する宇宙に君臨し、宇宙にひそむ偉大なる力を開発し、万物に与えられたるそれぞれの本質を見出しながら、これを生かし、活用することによって、物心一如の真の繁栄を生み出すことができるのである。
稲盛和夫氏は言う。魂を浄化、純化、進化するために、人類は有史以来大変な苦労をしてきた。人間としての最終目的が魂の浄化にあるために、一生涯をかけて修行している人が数多くいるわけだ。私たちは今こうして現世に生まれてきて、事業経営を行なっている。自分一人生きるのも大変なのに、一人でも二人でも従業員を雇い、その家族を養っていくことは並の苦労ではできない。そのことがすでに、利他行であり、魂の浄化への道なのだ。
真理を問うことは、志の高さにつながる。今後のマーケットは経営者の志を見て企業を評価するようになると言われている。ビジョンやミッションはもちろん、フィロソフィーまで求められるのが新しい企業像なのである。