マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2025.01

冠婚葬祭は日本文化の集大成  礼の社は「文化の防人」集団だ!

●『冠婚葬祭文化論』の刊行
 昨年の12月に『冠婚葬祭文化論』(産経新聞出版)を上梓しました。今回はペンネームの一条真也ではなく、本名の佐久間庸和として書きました。おかげさまで大きな反響があり、発売直後には全国の図書館での購入も決定しました。同書の帯には、「冠婚葬祭は日本文化の集大成」と大きく書かれ、本文でもそのことを繰り返し訴えています。この言葉は、昨年9月20日に逝去した佐久間進名誉会長が生前語っていたものです。
 わたしは、昨年8月に一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団の理事長に就任しました。「冠婚葬祭文化」といいますが、冠婚葬祭は文化そのものです。日本には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲・武道といった、さまざまな伝統文化があります。そして、それらの伝統文化の根幹にはいずれも「儀式」というものが厳然として存在します。たとえば、武道は「礼に始まり、礼に終わる」ものです。すなわち、儀式なくして文化はありえません。その意味において、儀式とは「文化の核」であると言えます。

●日本文化の集大成
 儀式が「文化の核」なら、冠婚葬祭は「日本文化の集大成」です。茶道、華道、香道といえば日本文化を代表する「三大芸道」ですが、仏式葬儀の中にはお茶もお花もお香も、すべて含まれています。
 「日本文化の集大成」としての冠婚葬祭を見た場合、まず「食」の文化があります。ハレの席に不可欠なものに食事があり、現代でも冠婚葬祭の諸行事のほとんどには会食が伴います。このような場合の食事として提供されるのは、正月のおせち料理など、和食をはじめとした伝統的な料理である場合も多いです。この中には、葬儀の際の通夜振る舞い・御斎・精進落としなどのように、ただ伝統的な手順で作られるのみならず、提供される品目に条件が定められているものも少なからずあります。つまり、冠婚葬祭は食文化を現代に伝えているものであると理解できます。
 冠婚葬祭において、今日では食事は「家族」が集まり特別な共食の場が設けられますが、食事が人と人を結びつけるとする共食文化の理論がここには息づいています。

●「装」の文化を守ってきた
 「食」の文化の次には、「装」の文化があります。今日の七五三を行う上で盛装することはかなり大きなウェイトを持ちます。
 この場合、男女問わず和装を選択することは現代でも多く、成人式の振り袖や結婚式の白無垢や色打掛など、冠婚葬祭は日本人が人生の中で伝統的な服装である和服(着物)を身につける数少ない機会となっています。この他にも、初宮の産着や還暦に際しての赤い「ちゃんちゃんこ」に代表される長寿祝にあたっての衣裳、社寺の祭事における装束、葬儀の際の死装束といった特殊な服装に至るまで、冠婚葬祭と和装は不可分な関係です。
 今や和服をほとんど身につけない日本人にとって、冠婚葬祭はこれを着る限られた機会であり、着物をはじめとした和服にまつわる文化の大部分は冠婚葬祭に内包されていますし、今日ではここに依拠しているといって過言ではありません。

●「歌」の文化、「書」の文化
 その他にも、「歌」の文化があります。最近は少なくなりましたが、結婚式で歌いもの(日本の伝統的な声楽のなかで地歌・長唄・端唄など)や民謡・郷土歌などの伝統的な歌謡が行われることがあります。
 他方、葬儀においても神葬祭での誄歌・追慕歌や仏式葬儀での御詠歌など、冠婚葬祭は現代の歌謡曲でない古典的な「歌」に触れる場です。『万葉集』の挽歌に代表されるように、故人に歌を捧げることは古来行われており、現代でも先祖祭祀や故人・先人を偲ぶために献詠歌・献詠句が行われています。これらから冠婚葬祭は、歌の文化とも密接に関係し、これを趣味以外の実用的なものとして現代に継承する装置であるといえるでしょう。
 「書」の文化もあります。パソコンなどを用いて容易に文字が印刷できるようになった現代にあって、冠婚葬祭、殊に結婚式や通過儀礼、あるいは葬儀の際に用意する祝儀・不祝儀袋の表書きは毛筆で手書きされることも珍しくありません。この点を踏まえれば、冠婚葬祭は書道の文化を保全すると同時にこれを内包しているといえます。

●新しい文化も取り込んできた
 さらには、「写真」の文化があります。
 七五三や結婚式を写真のみで済ませる事例があるなど、現代の冠婚葬祭と写真は不可分です。写真は文化としての歴史が決して深くはありませんが、近年になって冠婚葬祭が取り込んだ文化の代表例であり、成立した時代を問わず冠婚葬祭が他の文化を包摂しうることを示しています。
 もちろんこれら以外にも冠婚葬祭とそれを構成する要素は日本に存在する多くの文化と密接に関連しています。ここに挙げる事例だけを見ても、冠婚葬祭がさまざまな文化と密接に関連し、あるいはそれを保全する役割を担っているとがわかります。
 こうした現状はまさに「文化の集大成」であり、冠婚葬祭の存在なくして日本の伝統文化はもちろん、近代になって生まれたものも含めた諸文化を論じることが困難だとすら言えます。まさに、冠婚葬祭の諸儀礼を行うことがそのまま日本文化の継承となるのです。
 冠婚葬祭業という礼業に携わるわたしたちは、「文化の防人」集団です。ぜひ強い誇りをもって、日々の業務に励んでいただきたいと思います。

 儀式とは文化の核と知るならば
  文化集ふは冠婚葬祭  庸軒