マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2021.02

「論語と算盤」はサンレー哲学そのもの 利の元は義にあることを知ろう!

●大河ドラマ「青天を衝け」
日本各地に緊急事態宣言が発令されていますが、先月は各事業部において新年祝賀式典を行いました。責任者のみなさんからは、力強い決意表明を受け取りました。
さて、新しいNHK大河ドラマ「青天を衝け」が2月14日から始まりました。主人公は新1万円札の顔になる渋沢栄一です。
渋沢栄一は、約500の企業を育て、約600の社会公共事業に関わった「日本資本主義の父」として知られています。晩年は民間外交にも力を注ぎ、ノーベル平和賞の候補に二度も選ばれています。その彼が生涯、座右の書として愛読したのが『論語』でした。
渋沢栄一の思想は、有名な「論語と算盤」という一言に集約されます。それは「道徳と経済の合一」であり、「義と利の両全」です。結局、めざすところは「人間尊重」そのものであり、人間のための経済、人間のための社会を求め続けた人生でした。

●渋沢栄一の生涯
渋沢栄一は、天保11年(1840年)、武蔵国榛沢郡血洗島(現在の埼玉県深谷)に豪農の子として生まれています。
慶応3年(1867年)、15代将軍となった徳川慶喜の実弟で、後に最後の水戸藩主となる徳川昭武が、将軍慶喜の名代としてパリ万国博覧会に派遣されます。このとき、慶喜に仕えていた渋沢は、昭武のお供を命ぜられ、フランスへ渡りました。
渋沢がフランスに滞在しているとき、江戸幕府は滅びます。そこで渋沢は、明治元年(1868年)に帰国します。そこからは、まさに快刀乱麻の大活躍でした。第一国立銀行(現在の東京みずほ銀行)を起こしたのをはじめ、日本興業銀行、東京銀行(現在の東京三菱)、東京電力、東京ガス、王子製紙、石川島造船所、東京海上火災、東洋紡、清水建設、麒麟ビール、アサヒビール、サッポロビール、帝国ホテル、帝国劇場、東京商工会議所、東京証券取引所、聖路加国際病院、日本赤十字病院、一橋大学、日本女子大学、東京女学館など、おびただしい数の事業の創立に関わりました。

●「論語と算盤」
渋沢は、「自分さえ儲かればよい」とする欧米の資本主義の欠陥を見抜いていました。ですから、彼は「社会と調和する健全な資本主義社会をつくる」ことをめざしますが、その拠り所を『論語』に求めました。
なぜ、実業家である渋沢が『論語』を読み込んだのか。それは、彼が会社を経営する上で最も必要なのは、倫理上の規範であると知っていたからです。
渋沢の思想は、有名な「論語と算盤」という一言に集約されます。それは「道徳と経済の合一」であり、「義と利の両全」です。結局、めざすところは「人間尊重」そのものであり、人間のための経済、人間のための社会を求め続けた人生でした。
特筆すべきは、あれほど多くの会社を興しながら渋沢が財閥を作ろうとしなかったことです。後に三菱財閥を作った岩崎弥太郎から手を組みたいと申し入れがありましたが、渋沢はこれを厳に断っています。利益は独占すべきではなく、広く世に分配すべきだと考えたからです。

●聖徳太子・徳川家康・渋沢栄一
『論語』はわたしの座右の書でもありますが、その真価を最も理解した日本人が3人いると思っています。聖徳太子と徳川家康と渋沢栄一です。
聖徳太子は「十七条憲法」や「冠位十二階」に儒教の価値観を入れることによって、日本国の「かたち」を作りました。徳川家康は儒教の「敬老」思想を取り入れることによって、徳川幕府に強固な持続性を与えました。そして、渋沢栄一は日本主義の精神として『論語』を基本としたのです。
聖徳太子といえば日本を作った人、徳川家康といえば日本史上における政治の最大の成功者、そして渋沢栄一は日本史上における経済の最高の成功者と言えます。
この偉大な3人がいずれも『論語』を重要視していたということは、『論語』こそは最高最大の成功への指南書であることがわかりますね。
渋沢には、『論語』の言葉を題材に、自身の経験や思想を縦横無尽に語った『論語と算盤』という著書がありますが、日本人が書いた最高の『論語』入門書であり、『渋沢論語』であるとも言えます。

●孔子・渋沢栄一・ドラッカー
経営学者ピーター・ドラッカーは著書『マネジメント』上田惇生訳(ダイヤモンド社)で、「率直に言って私は、経営の『社会的責任』について論じた歴史的人物のなかで、かの偉大な明治を築いた偉大な人物の一人である渋沢栄一の右に出るものを知らない。彼は世界の誰よりも早く、経営の本質は『責任』に他ならないということを見抜いていたのである」と絶賛しました。
そう、「利の元は義」です。
自分の仕事に対する社会的責任を感じ、社会的必要性を信じることができれば、あとはどうやってその仕事を効率的にやるかを考え、利益を出せばよい。「論語と算盤」とは、ハートフル・マネジメントを言い換えたものなのです。ドラッカーが渋沢栄一をこよなくリスペクトするのも当然だと言えるでしょう。そして、渋沢自身は孔子をこよなく尊敬していました。
わたしの著書に『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)という本がありますが、渋沢栄一こそは、まさに孔子とドラッカーをつなぐ偉大なミッシング・リンクでした。もちろん、わたしも渋沢の言うように「利の元は義」であると確信しています。
そして、「利の元は義」こそは、わがサンレーの目指す「天下布礼」の志を支える思想であると思っています。

利の元は義にあることを知りたれば
天下布礼の道は開けり  庸軒