マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2022.10

稲盛和夫氏、逝く! 稲盛哲学から学んだこと

●稲盛和夫氏の偉大な人生
わたしが心から尊敬する経営者である稲盛和夫氏が、8月24日の朝、老衰のため、お亡くなりになられました。90歳でした。心より御冥福をお祈りいたします。
稲盛氏は1932年(昭和7年)年1月、鹿児島市で生まれました。鹿児島大学工学部を卒業し、59年に京都セラミツク(現京セラ)を設立。一代で世界的な電子部品メーカーに育て、電子産業の発展に貢献。
通信事業分野では規制緩和の先駆けとなり、1985年に第二電電(DDI)を設立。現在のKDDIへの統合を進め、NTTの独壇場だった通信事業に自由化をもたらしました。科学技術や文化事業にも力を注ぎ、私財を投じて稲盛財団を設立、数多くのノーベル賞受賞者を輩出する京都賞を創設しました。若手経営者を育てる「盛和塾」を創設し、後進の指導にも取り組みました。
そして、2010年には会社更生法の適用を申請した日航の会長を引き受け、戦後最大規模の企業再生を主導しています。

●動機善なりや私心なかりしか
京セラ、KDDI、そしてJALと、これまで多くの企業の経営に携わってきた稲盛氏は、驚くべきことに、それらのすべてにおいて成功を収めてきました。その際、つねに心の中で「動機善なりや私心なかりしか」と自問し続けられてきたそうです。
特に瀕死の状態であったJALは見事な復活を遂げ、再上場を果たしました。稲盛氏のフィロソフィーが、JAL社員の「こころ」に届いた結果であると思います。労働運動に明け暮れたJALの社員たちも、自分たちの会社を何としても生き返らせたいと真剣に考えたのでしょう。「会社は社会のもの」であり、「人が主役」と喝破したのはドラッカーです。会社とは経営者のものでも組合のものでもなく、社会のものなのです。そして会社とは、人間を幸せにするために存在しているのです。会長就任時に「なぜ、日航会長を引き受けたのか」というマスコミの質問に対して、「日航の社員を幸せにしたいからです」と即答した稲盛氏の姿に感動しました。

●稲盛和夫の公式とは?
稲盛氏は、企業経営者として「全従業員の物心両面の幸福」を追求し、「人類社会の進歩発展」に貢献するという思想の根源は、「人として何が正しいかという判断基準」に拠っている極めてシンプルにしてプリミティブなものだと述べています。
稲盛氏は「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という公式を打ち出しました。
ご本人の経験則に裏打ちされたものだけに強い説得力があります。著書『心を高める、経営を伸ばす』(PHP研究所)で、稲盛氏は「能力とは、頭脳のみならず健康や運動神経も含みますが、多分に先天的なものです。しかし、熱意は、自分の意志で決められます。この能力と熱意はそれぞれ0点から100点まであり、それが積でかかると考えると、自分の能力を鼻にかけ、努力を怠った人よりも、自分には頭抜けた能力がないと思って誰よりも情熱を燃やして努力した人の方が、はるかに素晴らしい成果を残すことができるのです」と述べています。

●一番重要なのは「考え方」である
そして、稲盛氏は一番重要なのは「考え方」であるとして、「考え方とは、人間としての生きる姿勢であり、マイナス100点からプラス100点まであります。つまり、世をすね、世を恨み、まともな生き様を否定するような生き方をすれば、マイナスがかかり、人生や仕事の成果は、能力があればあるだけ、熱意が強ければ強いだけ、大きなマイナスとなります。素晴らしい考え方、つまり人生哲学を持つか持たないかで、人生とは大きく変わってくるのです」と述べています。
さて、稲盛氏は『論語』を愛読し、第2回「孔子文化賞」を受賞されています。経営コンサルタントで歴史研究家の皆木和義氏は、著書『稲盛和夫の論語』(あさ出版)において、稲盛氏の教えには『論語』との共通点が多く、読書家である稲盛氏が孔子の教えを血肉化しているという事実を論証しました。

●稲盛哲学のベースに『論語』あり!
『稲盛和夫の論語』には、稲盛氏の公式は『論語』の「子曰く、位なきことを患えず、立つ所以を患う。己を知ること莫きを患えず、知らるべきことを為すことを求るなり」という言葉の影響を受けていると指摘しています。この言葉の意味ですが、「孔子は言った。地位がないことを心配せず、その地位に立つべき理由を気にせよ。自分を認める人がいないのを気にかけず、人に認められるような行動ができるように努力せよ」となります。
組織のリーダーには何が必要か。それは、なによりも「人間性」であり、世に認められるには「人間尊重」という確固たる信念に基づいた日々の実践が大事であると孔子は説きました。その孔子の教えと稲盛氏の公式は同一であると皆木氏は指摘しているのです。
さらに、稲盛氏は「PROFIT(利益)」「AMBITION(願望)」「SINCERIRTY(誠実さ)」「STRENGTH(真の強さ)」「INNOVATION(創意工夫)」「OPTIMISM(積極思考)」「NEVER GIVE UP(決してあきらめない)」という経営7か条を唱え、7つの文字の頭文字を並べて「PASSION」を訴えました。わが社も、この考えによって経営されていると自負しています。
わたしは、稲盛氏と「孔子文化賞」を同時受賞させていただきましたが、この上ない名誉であると思っています。わが社も「動機善なりや私心なかりしか」の精神で、「全従業員の物心両面の幸福」を追求し、「人類社会の進歩発展」に貢献したいものだと心から願っています。

この仕事 世のため人のためなるか
動機は善か私心はなきか  庸軒