マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2009.08

世界が日本にあこがれている  冠婚葬祭はクール・ジャパンだ!

●クール・ジャパンとは何か

 いま、世界の人々から日本文化が熱い注目を浴びています。「クール・ジャパン」という言葉をご存知ですか?
 「COOL」は本来の「涼しい」から「爽快」、そして「カッコいい」とか「素敵」の意味で使われています。つまり、「クール・ジャパン」とは「カッコいい日本」「素敵な日本」という意味ですね。
 もともとは、アメリカの財団の研究員であるダグラス・マグレイによる造語です。彼は、「現代の国力を計るときには、一国の持つクールさで計る必要がある」と述べ、「日本は80年代の経済大国を超える文化大国になった」と断言しています。
 いま世界から「クール」な国として賞賛されている日本ですが、その理由としては、なんといっても日本がマンガ、アニメの母国であることが大きいでしょう。
●日本は世界のあこがれ
 今日に至る日本のアニメ文化は、わたしが生まれた年である1963年にテレビでスタートした手塚治虫の「鉄腕アトム」にはじまります。はっきり言って、手塚治虫の存在がなければ、現在のクール・ジャパンはありえなかったでしょう。そして、手塚に続く藤子・F・不二雄の「ドラえもん」を筆頭として、「ドラゴンボール」「機動戦士ガンダム」「ポケットモンスター」「ワンピース」「NARUTO―ナルト―」などのアニメ作品が世界中から熱い注目を浴びているのです。
 「ドラえもん」は中国をはじめとしたアジア各国に、それを凌ぐ人気の「ポケットモンスター」は欧米各国で圧倒的な人気を誇っています。いまやディズニー作品を超える評価を受けている宮崎駿監督のアニメ映画の人気はいうまでもありません。
 映画界では、かつて黒澤明監督が世界的な人気を誇りました。
●「おくりびと」が示した日本文化
 しかし、今年になって日本の文化の歴史を揺るがす大事件が起こりました。そうです、「おくりびと」の第81回アカデミー外国語映画賞の受賞です。日本映画において初の快挙であり、この受賞によって、世界50カ国以上で上演されることになりました。
 世界中の人々が納棺師を演じた本木雅弘さんの所作に未知の美を感じ、「日本文化としての葬儀の素晴らしさ」を多くの識者が語っていました。これまで日本文化といえば、浮世絵、歌舞伎、能、茶道、華道、相撲などを世界の人々は高く評価し、愛してきました。
 しかし、日本の葬送儀礼にこの上ない芸術と文化を発見したのです。葬儀は、まさに「クール・ジャパン」でした!世界中の人々が、いま、「あんな旅立ちをしてみたい」と日本の葬儀にあこがれています。
 ひるがえって、日本の結婚式、披露宴はどうでしょうか。「クール・ジャパン」どころか、欧米の醜悪なモノマネでしかない大聖堂ウエディングなどを見るにつけ、情けない気持ちでいっぱいになります。そういえば、本木雅弘さんは95年に神前式を挙げています。
●宗教が混ざり合った日本の葬儀
 アカデミー外国語映画賞ですが、本来は前評判の高かったイスラエル映画が本命だったそうです。それを押しのけて受賞したのは、世界が泥沼のパレスチナ紛争やイラク戦争などに疲れきっていたのかもしれません。
 やはり「クール・ジャパン」の旗手であり、エレサレム文学賞を受賞した作家の村上春樹氏は、「弱い卵」の側に味方する立場をイスラエルの地で宣言しました。その思いは、貧困社会であえぐ人々をはじめ、多くの人々が心の底で感じていることでもあります。
 現在の世界情勢は混乱をきわめています。2001年に起こった9・11同時多発テロからイラク戦争へとつながった背景には、「宗教の衝突」がありました。
 そんな中で「おくりびと」は、宗教戦争に疲れた世界に大いなる「癒し」を与えたといえるでしょう。そして、それが可能となったのは日本の冠婚葬祭そのものの成り立ちに秘密がありました。
 たとえば、日本の葬儀は完全な仏教の儀式ではありません。そこには儒教の要素が多く入っていますし、清めの塩などの習俗は完全に神道から来ています。つまり、神道、仏教、儒教とさまざまな宗教が混ざり合っているのです。
●冠婚葬祭は究極の「平和」のかたち
 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三宗教は、その源を一つとしながらも異なる形で発展しましたが、いずれも他の宗教を認めない一神教です。宗教的寛容性というものがないから対立し、戦争になってしまいます。
 一方、八百万の神々をいただく多神教としての神道も、「慈悲」の心を求める仏教も、思いやりとしての「仁」を重要視する儒教も、他の宗教を認め、共存していける寛容性を持っています。
 だからこそ、神道も仏教も儒教も日本において習合し、または融合したのです。そして、その宗教融合を成し遂げた人物こそ、かの聖徳太子でした。憲法十七条や冠位十二階に見られるごとく、彼は偉大な宗教編集者でした。
 この聖徳太子が行なった宗教における編集作業は日本人の精神的伝統となり、今日にいたるまで「冠婚葬祭」という日本人の生活習慣に生きているのです。
 すなわち、日本の冠婚葬祭はあらゆる宗教を受け容れる究極の平和の「かたち」なのです。「おくりびと」にも、その平和の心が表現されています。わたしたちは、このような素晴らしい仕事をしていることに心からの誇りと使命感を持ちましょう!
  大いなる和のかたちにて
    争いの世界を溶かす大和のこころ  庸軒