マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2020.12

コロナ禍の中での大ヒット 『鬼滅の刃』から学ぶこと

●社会現象となった『鬼滅の刃』
いよいよ師走ですね。先月18日、サンレー創立54周年式典が無事に開催されました。そのときの社長訓示でも少し言及しましたが、いま、世間では新型コロナウイルスと『鬼滅の刃』の話題で持ちきりです。
『鬼滅の刃』とは、吾峠(ごとうげ)呼世晴(こよはる)氏の漫画で、アニメ化・映画化され大ヒットし、もはや社会現象にまでなっています。漫画の第1巻には、「時は大正時代。炭を売る心優しき少年・炭治郎(たんじろう)の日常は、家族を鬼に皆殺しにされたことで一変する。唯一生き残ったものの、鬼に変貌した妹・禰豆子(ねずこ)を元に戻すため、また家族を殺した鬼を討つため、炭治郎と禰豆子は旅立つ!! 血風剣戟冒険譚、開幕!!」と書かれています。
鬼滅ブームのことはもちろん知っていましたが、漫画の絵柄もあまり好みではなかったのでスルーしていたのですが、あることがきっかけで興味を持ちました。

●「鬼滅の刃」との出合い
というのは、わが社が提供している九州朝日放送(KBC)の人気番組「前川清の笑顔まんてん旅好キ」を観ようと日曜日の正午にテレビのスイッチを入れたところ、最初にテレビ西日本(TNC)が映りました。
すると、そこには猪の仮面を被った男の顔がアップで映し出されていたのです。ちょうど、わたしの自宅の敷地内に100キロ以上の猪が侵入し、庭を荒らされた直後でした。
長年育ててきた芝生を台無しにされたショックから、わたしはその日、猪のことを考えていたのです。そこに猪男の映像が目に入ってきたものですから仰天しました。まさに、意味のある偶然の一致としての「シンクロニシティ」です。そして、その番組こそ、アニメ「鬼滅の刃」だったのです。

●社会現象をスルーするな!
その後、ネットフリックスに加入し、全26話を鑑賞。「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」も観ました。さらに、原作コミックス既刊22巻を一気読みした次第です。
本当は、「鬼滅の刃」のように、あまりにも流行になったものはスルーしたいと思っていました。しかし、インサイト代表の桶谷功氏が「このようにブームを巻き起こしているものがあったら、たとえ自分の趣味ではなかろうが、軽薄なはやりもの好きと思われようが、必ず一度は見ておくべきです。社会現象にまでなるものには、どこか優れたものがあるし、『時代の気分』に応えている何かがある。それが何なのかを考えるための練習材料に最適なのです」と述べているのを知り、わたしは「その通りだな」と思ったのです。
実際に体験すると、「社会現象にまでなるものには、どこか優れたものがあるし、『時代の気分』に応えている何かがある」というのは大当たりでした。

●グリーフケアの物語
まず、この物語のテーマは、わが社が追求している「グリーフケア」ではないですか!
鬼というのは人を殺す存在であり、悲嘆(グリーフ)の源です。そもそも冒頭から、主人公の竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)が家族を鬼に惨殺されるという巨大なグリーフから物語が始まります。また、大切な人を鬼によって亡き者にされる「愛する人を亡くした人」が次から次に登場します。それを鬼殺隊に入って鬼狩りをする人々は、復讐という(負の)グリーフケアを行います。
しかし、鬼狩りなどできない人々がほとんどであり、彼らに対して炭治郎は「失っても、失っても、生きていくしかない」と言うのでした。強引のようではあっても、これこそグリーフケアの言葉ではないでしょうか。

●「利他」の精神で鬼退治
炭治郎は、心根の優しい青年です。
鬼狩りになったのも、鬼にされた妹の禰豆子を人間に戻す方法を鬼から聞き出すためであり、もともと「利他」の精神に溢れています。その優しさゆえに、炭治郎は鬼の犠牲者たちを埋葬し続けます。無教育ゆえに字も知らず、埋葬も知らない伊之助が「生き物の死骸なんか埋めて、なにが楽しいんだ?」と質問しますが、炭治郎は「供養」という行為の大切さを説くのでした。
さらに、炭治郎は人間だけでなく、自らが倒した鬼に対しても「成仏してください」と祈ります。まるで、「敵も味方も、死ねば等しく供養すべき」という怨親平等の思想のようです。『鬼滅の刃』には、「日本一慈しい鬼退治」とのキャッチコピーがついており、さまざまなケアの姿も見られます。鬼も哀しい存在なのです。

●心ゆたかなホワイト企業
人を殺す鬼は「死」のメタファーですが、最近で言うなら、「コロナ」も同じです。禰豆子を連れ歩く炭治郎は、「鬼と共生する人間」であり、これは「ウィズ・コロナ」そのものではないでしょうか。
「鬼滅の刃」という物語は基本的には戦の話です。一方に、鬼舞辻無惨をリーダーとして、「上弦」たちがトップを占める「鬼」のグループ。他方に、「お館様」こと産屋敷耀哉をリーダーとして、「柱」たちがトップを占める「鬼殺隊」のグループ。この両グループが死闘を繰り広げる組織vs組織の戦争物語です。マネジメントやリーダーシップの観点からも興味深いです。
恐怖心で鬼たちを支配する鬼舞辻無惨はハートレス・リーダーであり、鬼殺隊の剣士たちを心から信頼し、かつリスペクトする産屋敷耀哉はハートフル・リーダーです。両陣営の闘いは「ブラック企業vsホワイト企業」と言ってもいいでしょう。
ホワイト企業には志や使命感があることも確認できました。そして、わがサンレーの行き方が間違っていないことも確認できたのでした。

鬼を斬り成仏願ふ慈(いつく)しみ
利他のこころで人を救はん  庸軒