伝統力を身につけ 冠婚葬祭の文化を守ろう!
●究極のマネジメント思想
おかげさまで、わが社も来年で45周年を迎えます。もちろん、世の中には創業100年を超えるような企業もたくさん存在しています。でも、わが社も、それなりの歴史を刻み、伝統をつけてきているわけです。
この「伝統」という考え方は、儒教における「孝」の思想に関わっていると思います。わたしは、孔子とドラッカーの二人をこよなく尊敬していますが、この二人は、「死」のとらえ方において共通していると思います。正確には「不死」のとらえ方といったほうがよいかもしれませんが。
そして、そこには企業が存続していくための究極のマネジメント思想があります。
●壮大な生命の連続
孔子が開いた儒教における「孝」は、「生命の連続」という観念を生み出しました。
日本における儒教研究の第一人者である大阪大学名誉教授の加地伸行先生によれば、祖先崇拝とは、祖先の存在を確認することであり、祖先があるということは、祖先から自分に至るまで確実に生命が続いてきたことになります。また、自分という個体は死によってやむをえず消滅するけれども、もし子孫があれば、自分の生命は存続していくことになります。わたしたちは個体ではなく一つの生命として、過去も現在も未来も、一緒に生きるわけです。つまり、人は死ななくなるのです。
加地先生によれば、「遺体」という言葉の元来の意味は、死んだ体ではなく、文字通り「遺した体」です。すなわち本当の遺体とは、自分がこの世に残していった身体、すなわち子なのです。親から子へ、先祖から子孫へ、「孝」というコンセプトは、DNAにも通じる壮大な生命の連続ということなのです。孔子は、このことに気づいていたと思います。
●会社を思想で継承する
一方、ドラッカーは、著書の書名にもなった「会社という概念」について考え抜きました(現在は『企業とは何か』の題名で新訳が出ています)。まさにこの「会社」という概念も「生命の連続」に通じます。
世界中のエクセレント・カンパニーやビジョナリー・カンパニーやミッショナリー・カンパニーというものには、いずれも創業者の精神が生きています。エジソンや豊田佐吉やマリオットやディズニーの身体はこの世から消滅しても、志や経営理念という彼らの心は会社の中に綿々と生き続けているのです。
重要なことは、会社とは血液で継承するものではなく、思想で継承すべきものであるということです。
創業者の精神や考え方をよく学んで理解すれば、血のつながりなどなくても後継者になりうる。
むしろ創業者の思想を身にしみて理解し、指導者としての能力を持った人間が後継者となったとき、その会社も関係者も最もよい状況を迎えられるのではないでしょうか。
●継承と革新が大切
逆に言えば、超一流企業とは創業者の思想をいまも培養して保存に成功しているからこそ、繁栄し続け、名声を得ているのかもしれません。もちろん、会社や組織の発展には、「継承」とともに「革新」というものが求められますが。
いずれにせよ、孝も会社も、人間が本当の意味で死なないために、その心を残す器として発明されたものではなかったかと思います。
陽明学者の安岡正篤は、「孝」とは連続や統一を意味すると述べています。「老」すなわち先輩・年長者と、「子」すなわち後進の若い者とが断絶することなく、連続して一つに結ぶのです。
そこから「孝」という字ができ上がりました。つまり、「孝」=「老」+「子」なのです。そうして先輩・年長者の一番代表的なものは親ですから、親子の連続・統一を表わすことに主に用いられるようになったのです。
人間が親子・老少、先輩・後輩の連続・統一を失って疎隔・断絶すると、どうなるのか。個人の反映はもちろんのこと、国家や民族の進歩・発展もなくなってしまいます。
●冠婚葬祭という伝統文化産業
もともと、わが社の事業である冠婚葬祭そのものが「孝」をコンセプトとする伝統的な産業であると言えるでしょう。
結婚式ならびに葬儀にあらわれたわが国の儀式の源は、小笠原流礼法に代表される武家礼法に基づきます。そして、その武家礼法の源は日本の神話である『古事記』に表現されています。
すなわち『古事記』に描かれたイザナギ、イザナミのめぐり会いに代表される陰・陽両儀式のパターンこそ、後醍醐天皇の室町期以降、今日のわが国の日本的儀式の基調となって継承されてきました。
太平洋戦争以降、日本社会は大きな変革を遂げ、欧米文化の著しい影響を受けました。それにもかかわらず、今日の結婚式の中で、和装でもドレスでも、花嫁は最初は白を着て、それからお色直しをします。日本民族としての陰陽両儀式の踏襲が見事に表現されています。
結婚式のみならず葬儀、さらには各種通過儀礼を総合的にとり行う冠婚葬祭互助会の最大の使命とは日本の儀礼文化を継承し、「日本的よりどころ」を守る、すなわち日本人の精神そのものを守ることなのです。
その意味で冠婚葬祭業には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲など、日本の伝統文化と同じ、いや、儀礼というさらに「文化の核」ともいえる重要なものを継承するという重大な使命があるのです。
伝統力を身につけて、日本人の「こころ」を支える冠婚葬祭文化を守りましょう!
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