サービス業からケア業へ 新しい時代の幕を開こう!
●「感謝」と書かれた色紙
先月6日、北九州市児童養護施設「天使育児園」の先生と成人式を迎えられた方が松柏園ホテルに来館されました。わが社では、児童養護施設のお子さんへ七五三や成人式の晴れ着・着付け・写真撮影などを無償でお世話させていただいています。成人式を迎えられたご本人は「とても嬉しかった」と、涙ながらに感謝の言葉を述べて下さいました。
その際、七五三を迎えたお子さんたちのメッセージも添えた色紙をプレゼントしていただきました。色紙の中央に貼紙で「感謝」とカラフルにデザインされていました。こんな素敵な贈り物が他にあるでしょうか!
七五三の写真について、小1女子の「おとなになるまで大せつにします」とのメッセージが書かれていました。その他のお子さんや先生方からのメッセージも読んで、わたしは非常に感動し、「本当に良かった!」と思いました。松柏園のスタッフ一同も、目頭が熱くなったそうです。
わたしは、「冠婚葬祭という本業を通じて世の中を少しでも良くすることができた!」という自信と誇りが湧いてきました。これは社長であるわたしだけでなく、社員のみなさんも同じだと思います。
●こころの贈り物
現在、コロナ禍で冠婚葬祭業はかつてない困難の中にあります。現場で働く社員のみなさんも、いろいろと不安を抱えています。でも、この色紙を見て、いろんなネガティブな感情が消えたのではないでしょうか。「人を幸せにすることができる儀式は素晴らしい!」「冠婚葬祭の灯を絶対に消してはならない!」という想いが湧いたように思います。
わたしたちは、けっして一方的に児童養護施設のお子さんたちに贈り物をしたのではありません。わたしたちも素晴らしい「こころの贈り物」をいただきました。そして、お互いが「こころの贈り物」を贈り合う行為を「ケア」というのです。
相手を支えることで、自分も相手から支えられることを「ケア」というのです。「ありがとう」と言ってくれた相手に対して、こちらも「ありがとう」と言うことが「ケア」なのです。そう、「サービス」は一方向ですが、「ケア」は双方向です。
●「ケア」は双方向である
ポスト・コロナ社会を予見するために、わたしは多くの書を読みました。「SDGs」「ウェルビーイング」「利他」「尊厳」、そして、それらすべてを貫く「ケア」というキーワードが浮かび上がってきました。
最近、『ケアとは何か――看護・福祉で大事なこと』村上靖彦著(中公新書)という素晴らしい本を読みました。同書によれば、人間なら誰でも病やケガ、衰弱や死は避けて通れません。自分や親しい人が苦境に立たされたとき、わたしたちは「独りでは生きていけない」ことを痛感します。そうした人間の弱さを前提とした上で、生を肯定し、支える営みがケアなのです。
英語の熟語「take care of」は、「・・・を世話する」「大事にする」という意味です。ここから、「世話」「配慮」「関心」「気遣い」などの意味が出てきます。「ケア」という日本語がよく使われるようになったのは最近のことです。
●「ケア」と「相互扶助」
もともと、「ケア」は、「health care(医療)」「nursing care(看護)」といった、もっと限定された、専門的な術語として使われてきました。
しかし今では、ケアは「幸福」「倫理」「愛」「善」などの概念と密接に関わる言葉となっています。どうやら、人間存在の根源的なものが、「ケア」に通じていると言えそうです。
わたしは、「ケア」とは「相互扶助」という言葉と深く関わっていると考えます。人間は誰もが1人では生きていません。必ず他人の存在を必要とします。それはそのまま「相互扶助」が不可欠であるということであり、誰もがケアを必要としているということです。
真の奉仕とは、サービスではなく、ケアの中から生まれてくるものだと言えます。ここでいう奉仕とは、自分自身を大切にし、その上で他人のことも大切にしてあげたくなるといったものです。自分が愛や幸福感にあふれていたら、自然にそれを他人にも注ぎかけたくなります。「情けは人の為ならず」と日本でも言いますが、他人のためになることが自分のためにもなっているというのは、世界最大の公然の秘密の1つなのです。
●ケア業への進化を!
アメリカの思想家エマーソンは、「心から他人を助けようとすれば、自分自身を助けることにもなっているというのは、この人生における見事な補償作用である」と言いました。まさに至言ですね。
与えるのが嬉しくて他人を助ける人にとって、その真の報酬とは喜びにほかなりません。他人に何かを与えて、自分が損をしたような気がする人は、まず自分自身に愛を与えていない人でしょう。真の奉仕とは、助ける人、助けられる人が1つになると言います。どちらも対等です。相手に助けさせてあげることで、自分も助けています。相手を助けることで、自分自身を助けることになっています。相手に助けさせてあげることで自分を助け、相手を助けることで自分自身を助けるというのは、まさに与えること、受けることの最も理想的な円環構造と言えるでしょう。
その輪の中で、どちらが与え、どちらが受け取っているのかわからなくなります。それはもう、1つの流れなのです。コロナ禍が契機となって、もはやサービス業の時代は終わりつつあります。これからは、ケア業の時代です。わが社はケア業への進化をめざし、「ケアの時代」の幕を開きましょう!
サービスの時代は去りぬ
これよりはケアの時代の幕を開かん 庸軒