死者を想う8月 リメンバー・フェスで行こう!
●8月は死者を想う季節
今年も8月がやってきました。日本人全体が死者を思い出す季節です。6日の広島原爆の日、9日の長崎原爆の日、12日の御巣鷹山の日航機墜落事故の日、そし15日の終戦の日というふうに、3日置きに日本人にとって大切な日が訪れます。
そして、それはまさに日本人にとって最も大規模な先祖供養の季節である「お盆」の時期とも重なります。まさに8月は「死者を想う季節」と言えるでしょう。
わが社は冠婚葬祭互助会ですが、毎年、お盆の時期には盛大に「お盆フェア」などを開催して、故人を供養することの大切さを訴えています。しかしながら、小さなお葬式、家族葬、直葬、0葬といったように葬儀や供養に重きを置かず、ひたすら薄葬化の流れが加速している日本にあって、お盆という年中行事が今後もずっと続いていくかどうかは不安を感じることもあります。
特に、Z世代をはじめとした若い人たちは、お盆をどのように理解しているかもわかりません。お盆をはじめとした年中行事は日本人の「こころの備忘録」であり、そこにはきわめて大切な意味があります。
●アニメ映画「リメンバー・ミー」
「リメンバー・フェス」は、ディズニー&ピクサーの2017年のアニメ映画「リメンバー・ミー」からインスパイアされたネーミングです。同作は第90回アカデミー賞において、「長編アニメーション賞」と「主題歌賞」の二冠に輝きました。
過去の出来事が原因で、家族ともども音楽を禁止されている少年ミゲル。ある日、先祖が家族に会いにくるという「死者の日」に開催される音楽コンテストに出ることを決めます。伝説的ミュージシャンの霊廟に飾られたギターを手にして出場しますが、それを弾いた瞬間にミゲルは死者の国に迷い込んでしまいます。カラフルな「死者の国」も魅力的で、「死」や「死後」というテーマを極上のエンターテインメントに仕上げた大傑作です。「リメンバー・ミー」を観れば、死者を忘れないということが大切であると痛感します。
●盆踊り・太鼓は死者のために
さて、お盆といえば、「盆踊り」の存在を忘れることはできません。日本の夏の風物詩ですが、もともとはお盆の行事の1つとして、ご先祖さまをお迎えするためにはじまったものです。今ではご先祖さまを意識できる格好の行事となっています。昔は、旧暦の7月15日に初盆の供養を目的に、地域によっては催されていきました。
盆踊りというものは、生者が踊っている中で、目には見えないけれども死者も一緒に踊っているという考え方もあるようです。
照明のない昔は、盆踊りはいつも満月の夜に開かれたといいます。太鼓と「口説き」と呼ばれる唄に合わせて踊るもので、やぐらを中央に据えて、その周りをみんなが踊ります。地域によっては、初盆の家を回って踊るところもありました。太鼓とは死者を楽しませるものでした。わたしの出身地である北九州市小倉では祇園太鼓が夏祭りとして有名ですが、もともと先祖の霊をもてなすためのものです。
●花火大会も死者のために
さらに、夏の風物詩といえば、大人気なのが花火大会です。北九州には、佐久間進名誉会長が北九州市観光協会の会長時代に始めた「関門大花火大会」がありますね。
花火大会のいわれをご存知でしょうか? たとえば隅田川の花火大会。じつは死者の慰霊と悪霊退散を祈ったものでした。時の将軍吉宗は、1733年、隅田川の水神祭りを催し、そのとき大花火を披露したのだとか。当時、江戸ではコレラが流行、しかも異常気象で全国的に飢饉もあり、多数の死者も出たからです。花火は、死者の御霊を慰めるという意味があったのです。 ゆえに、花火大会は、先祖の供養という意味もあり、お盆の時期に行われるわけです。大輪の花火を見ながら、先祖を懐かしみ、あの世での幸せを祈る。日本人の先祖を愛しむ心は、こんなところにも表れています。つまり、太鼓も花火も死者のためのエンターテインメントだったわけです。
●死者を忘れてはならない
アフリカのある部族では、死者を二通りに分ける風習があるそうです。人が死んでも、生前について知る人が生きているうちは、死んだことにはなりません。生き残った者が心の中に呼び起こすことができるからです。しかし、記憶する人が死に絶えてしまったとき、死者は本当の死者になってしまうといいます。
誰からも忘れ去られたとき、死者はもう一度死ぬのです。映画「リメンバー・ミー」の中でも、同じメッセージが訴えらえました。誰からも忘れられてしまって繋がりを失ってしまうと、死者は本当の意味で存在することができなくなってしまうといいます。
わたしたちは、死者を忘れてはなりません。それは死者へのコンパッションのためだけではなく、わたしたち生者のウェルビーイングのためでもあります。
映画「リメンバー・ミー」から発想された「リメンバー・フェス」は、なつかしい亡き家族と再会できる祝祭ですが、都会に住んでいる人が故郷に帰省して亡き祖父母や両親と会い、久しぶりに実家の家族と語り合う祝祭でもあります。それは、あの世とこの世の誰もが参加できる祭りなのです。
日本には「お盆」、海外には「死者の日」など先祖や亡き人を想い、供養する習慣があります。国や人種や宗教や老若男女といった何にもとらわれない共通の言葉である「リメンバー・フェス」で供養のアップデートを図りたいと思います。
亡き人を偲ぶ祭りに加はれば
この世の者も心やすらか 庸軒