マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2023.07

人生会議に死生観カフェ 互助会の大きな役割が見えてきた!

●鎌田先生のインタビュー記事
 「朝日新聞」6月14日の夕刊に京都大学名誉教授の鎌田東二先生のインタビュー記事が掲載されました。「家族・友人と命語り 最後はお任せ」の大見出し、「突然の病、死と向き合うには」の見出しがありました。リード文には、「最近、記者(42)の周りでは病気で手術を受ける人が増えた。30、40代のがんも多く、ひとごととは思えない。突然、死を意識せざるを得ない病が降りかかったとき、どう向き合ったらいいのだろう」と書かれています。
 記者は、心の痛みを対話などで癒やすスピリチュアルケアの専門家で、宗教学者の鎌田先生がステージ4のがんが見つかり、治療を続けていることから、京都の自宅を訪ねて話を聴いたと書いています。
 鎌田先生のご病気のことはわたしもご本人から知らされていました。酒も煙草もやらず、比叡山への登頂を繰り返す先生の生き方を知っていましたので非常に驚きました。

●逆境と信仰心
 鎌田先生から最初にステージ4のがんの報告を受けたとき、わたしはショックを受けましたが、3月に先生と松柏園ホテルで再会したとき、そのお元気な様子に驚きました。その後も、日本全国を飛び回る精力的な活動を続けておられ、勇気を与えられています。
 鎌田先生は、宗教や死生観を50年近く研究し、普段から死を意識してこられたそうです。そんな先生と、わたしは対談本『古事記と儀礼~神道と日本人』(仮題、現代書林)を今秋に上梓する予定です。
 朝日の記事の中で、鎌田先生は「生きていれば必ず逆境が訪れます。逆境は暗く長いトンネルです。しかし、トンネルは必ず抜けられます。抜けたら、大きな光が与えられ、その人の人間性に強い力が加わります。ただ、信仰心のある人のほうが逆境に強いことは間違いありません」と述べておられます。「どうしてですか?」という記者の質問に対して、先生は「信仰は心の平安に作用するからです。天国に行って神のもとで暮らす、極楽で先祖に会える、何でもいいんです」と答えます。

●生きる糧は人間関係
 ただ、本当に天国に行けるのか、極楽があるのか迷うとして、鎌田先生は「目まぐるしく心が揺れ動きながらも、信仰があれば、自分を内観できるだけの余裕を持てます。心にやさしい風が吹き、穏やかに自分の心の状態を見つめられます」と答えています。
 「無宗教の人も多くいます」という質問に対しては、「そういう人たちも自分の生き方に信念を持つことがありますね。自分の死生観を含めた生き方を尊重するには、相手の考え方も尊重しなければなりません。多様な死生観や信仰が交わることで、より生きやすい社会になります」と答えます。
 また、死を前にした人の苦しみに対する回答は思い浮かばないとしながらも、鎌田先生は「病で死と直面した人に、他人がどんな言葉をかけても、なぐさめになりません。それほど絶望は深いんです。その状況で生きるかてを得るには、人と人の関係性しかないと思います。家族や友人の支えです」と述べておられます。

●「人生会議」と「死生観カフェ」
 家族や友人も不安を抱えています。その事実に対しては、鎌田先生は「だからこそ、普段から家族や友人と『人生会議』を持つことです。『死生観カフェ』でもいいですね。死をどう捉えたらいいか、死に向かうときにどう過ごしていくか、死生観を語り合うことです。そういう人間関係をいかに築いておくか。恥ずかしがらず、堂々と死を語り合いましょう」と述べています。
 さらに、鎌田先生は「若者には古典を読んでほしいと思います。古事記、日本書紀、プラトン、ソクラテス、論語、仏典、何だって構いません。この世には解決できないこと、答えの出ないことが存在していることを教えてくれます。深く考え、問い続けることで死生観の形成につながります」と述べます。
 「死の恐怖は克服できますか」という記者の質問に対しては、「病が進行し、体が機能しなくなっても、心のなかで起こることは最後まで生き続けます。その1つが、自分のなかに深く刺さった愛する人の言葉であり、自分の核として残っている言葉です。そういう言葉によって、自分の命を納得させられます」と述べています。

●死生観の叡智
 そして、死を受け入れることは、「お任せすること」でもあるという鎌田先生は、「私たちは、あらゆることを対象化し、分類します。あの人はだれ、これは何と認識することも分類です。ただ、命は分類できません。丸ごと、そのままの流れにお任せするしかない。何にお任せするか。神でも仏でも自然でも大いなる何かでもいい。重要なのは、苦しみにあっても、心を開いていく道があると考えられることです。それは命を手放すこと、と言えます。命をまっとうできることに感謝し、最後には手放していく。私も第2幕があるかわかりませんが、ありがとうと言って旅立っていきたいと思います」と述べるのでした。
 今回の鎌田先生のインタビュー記事は、死を乗り越えるための最高の叡智です。記事の中にある『古事記』も『論語』も仏典も、ソクラテスもプラトンも「人類の叡智」ですが、鎌田先生の死生観も叡智であると思います。
 「人生会議」や「死生観カフェ」も素晴らしいアイデアで、ぜひ、わが社のような互助会が取り組むべきプロジェクトですね。
 何よりも、最後の「ありがとうといって旅立っていきたい」という言葉が心に強く残りました。わたしたちも精一杯生きて、「ありがとう」と言って人生を卒業していきたいものですね!

 いつの日か 命手放すとき来れど
  お任せしつつ心開かん  庸軒