マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2013.08

死を直視する時代 人々に希望を与えよう!

『命には続きがある』

 超高齢社会を迎えて、日本人が「死」を直視してきたといわれています。特に、東日本大震災以降、その傾向が強くなってきた感がありますが、そんな折、わたしは二冊の著書を最近上梓しました。
 一冊は『命には続きがある』(PHP研究所)で、東大大学院教授で東大病院部長の矢作直樹先生とわたしの「死」と「魂」と「葬」をめぐる対談本です。矢作先生の『人は死なない』(バジリコ)と拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)という二冊の本がクロスオーヴァーした対談本で、コンセプトは「愛する人は死なない」です。
 カバーの前そでには「死は終わりではない」、後そでには「死は不幸ではない」と大きく書かれています。この二つの言葉こそは、矢作先生とわたしの共通した考えであり、一人でも多くの方に伝えたい想いです。
グリーフケアの普及をめざして
 矢作先生とわたしは「霊」や「魂」といった、いわゆるスピリチュアルな問題についても正面からガチンコで語り合っています。
 何よりも、医療界のトップにある方とわたしのような冠婚葬祭業者が「死」について徹底的に語り合ったのは世界でも初めてだと思います。そのせいもあってか大変な話題となり、発売直後から売り切れ店続出で、早々に大増刷が決定しました。
 ここ最近、わが社では、愛する人を亡くした人の悲しみを軽くするための「グリーフケア」の普及をめざしています。
 グリーフケアは医療・葬儀・そして宗教の三つのジャンルが協力しながら進めていくべき大いなる「こころ」の仕事です。
 このたびの矢作直樹先生との対談本が、日本人にとってのグリーフケア普及の一助となることを願ってやみません。
『死が怖くなくなる読書』
 もう一冊は、『死が怖くなくなる読書』(現代書林)です。死の「おそれ」も「かなしみ」も消えていくブックガイドです。
 「死生観は究極の教養である!」をコンセプトに、「死を想う」「死者をみつめる」「悲しみを癒す」「死を語る」「生きる力を得る」の五つの章に分かれています。
 最初に紹介する本は藤原新也氏の『メメント・モリ』(三五館)で、最後は拙著『また会えるから』(現代書林)です。その他にも、アンデルセンから村上春樹まで…さまざまな角度から「死」に関係する50冊の本を紹介しています。
 長い人類の歴史の中で、死ななかった人間はいませんし、愛する人を亡くした人間も無数にいます。その歴然とした事実を教えてくれる本、「死」があるから「生」があるという真理に気づかせてくれる本を集めました。
「幸福」というテーマ
 わたしは、これまでに多くの本を読んできました。若い頃からずっと「死」について考えてきたのですが、本当は「死」よりももっと関心のあるテーマがありました。それは「幸福」です。
 物心ついたときから、わたしは人間の「幸福」というものに強い関心がありました。学生のときには、いわゆる幸福論のたぐいを読みあさりました。
 そして、わたしは、こう考えました。
 政治、経済、法律、道徳、哲学、芸術、宗教、教育、医学、自然科学……人類が生み、育んできた営みはたくさんある。では、そういった偉大な営みが何のために存在するのかというと、その目的は「人間を幸福にするため」という一点に集約される。さらには、その人間の幸福について考えて、考えて、考え抜いた結果、その根底には「死」というものが厳然として在る…そのことを思い知りました。
死は不幸ではない
 そんなわたしが、どうしても気になったことがありました。それは、日本では、人が亡くなったときに「不幸があった」と人々が言うことでした。わたしたちは、みな、必ず死にます。死なない人間はいません。
 いわば、わたしたちは「死」を未来として生きているわけです。その未来が「不幸」であるということは、必ず敗北が待っている負け戦に出ていくようなものではないかと思えたのです。
 わたしたちの人生とは、最初から負け戦なのでしょうか。どんなすばらしい生き方をしても、どんなに幸福を感じながら生きても、最後には不幸になるのか。亡くなった人はすべて「負け組」で、生き残った人たちは「勝ち組」なのか。
 そんな馬鹿な話はありません。わたしは、「死」を「不幸」とは絶対に呼びたくありません。なぜなら、そう呼んだ瞬間に将来必ず不幸になるからです。
 死はけっして不幸な出来事ではありません。
「死」は人間の最重要テーマ
 「死」は、わたしたち人間にとって最重要テーマであると言えるでしょう。わたしたちは、どこから来て、どこに行くのでしょうか。そして、この世で、わたしたちは何をなし、どう生きるべきなのでしょうか。これ以上に大切なことなど存在しません。 なぜ、自分の愛する者が突如としてこの世界から消えるのか、そしてこの自分さえ消えなければならないのか。これほど不条理で受け容れがたい話はありません。 「死」について書かれた本を読むことによって、おだやかな「死ぬ覚悟」を自然に身につけることができればいいですね。それとともに、「生きる希望」を持つことができるなら、こんなに素晴らしいことはありません。  みなさんも、ぜひ二冊の本を読み、「死」について考えて下さい。わが社は多くの方々に死生観のヒントを与えることができる企業をめざしたいと思います。
 人はみな死すべきさだめ避けがたし
    同じ往くなら希望とともに  庸軒