マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2026.06

本は「こころの王国」への入口 人文知で天下布礼を進めよう!

●『本の読み方』の刊行
 4月20日、『本の読み方』と『映画の観方』(産経新聞出版)のツインブックスを刊行しました。読書も映画鑑賞も、わたしは「こころの王国」への入口であると考えていますが、今回は読書についてお話します。
 わたしは、本が大好きです。「本ほど、すごいものはない」と考えています。自分でも本を書くたびに思い知るのは、本というメディアが人間の「こころ」に与える影響です。
 わたしは、本を読むという行為そのものが豊かな知識にのみならず、思慮深さ、常識、人間関係を良くする知恵、ひいてはそれらの総体としての教養を身につけて「上品」な人間をつくるためのものだと確信しています。読書とは、何よりも読む者の精神を豊かにする「こころの王国」への入口です。
 『本の読み方』は、「本には礼を」「本は読むだけのものでなく愛するもの」をテーマに、アウトプットを意識した読み方などを公開した読書術指南書です。

●読書とは交霊術である
 『本の読み方』の中で、わたしは「読書とは交霊術だ」という考え方を示しました。読書という行為は死者と会話をすること、すなわち交霊術であると考えているのです。
 というのは、著者は生きている人間だけとは限りません。むしろ古典の著者は基本的に亡くなっています。つまり、死者です。死者が書いた本を読むという行為は、じつは死者と会話しているのと同じことです。
 たとえば、三島由紀夫の小説を読むときは「盾の会」の制服を着た三島が、小林秀雄の評論を読むときは仕立ての良いスーツを着た小林秀雄が目の前にいることを想像します。古代の人でも同じです。『論語』を読むときは孔子が、プラトンの哲学書を読むときはローブ姿のプラトンが、わたしの目の前に座って、わたしだけのために話してくれるシチュエーションを具体的にイメージします。

●DNAリーディング
 また、「DNAリーディング」という考え方も示しました。これは、簡単に言うと関連別読書法です。一冊の本の中には、メッセージという「いのち」が宿っています。その「いのち」の先祖を探り、思想的源流をさかのぼるのがDNAリーディングです。当然ながら古典を読むことに行き着きますが、この読書法だと体系的な知識と教養が身につき、現代的なトレンドも把握できます。
 たとえば哲学なら、ソクラテスの弟子がプラトンで、その弟子がアリストテレスというのは有名ですね。また、ルソーの大ファンだったカントの哲学を批判的に継承したのがヘーゲルで、ヘーゲルの弁証法を批判的に継承したのがマルクスというのも知られています。マルクスの影響を受けた思想家は数え切れません。こういった影響関係の流れをたどる読書がDNAリーディングです。重要なことは、DNAの存在さえ明らかにすれば、その先祖も子孫もよく理解できるということです。

●経営思想のDNA
 わたしは経営書も読みます。経営者の中では、稲盛和夫氏などが経営倫理を説かれました。日本における倫理の源流を探っていくと稲盛氏の前には松下幸之助がいて、その前には渋沢栄一がいて、さらに石門心学の石田梅岩に行き着きます。
 わたしは、吉田松陰を尊敬していますが、松陰は幕末の儒者・佐藤一斎を尊敬していて、佐藤は中江藤樹を、中江は陽明学だから王陽明を・・・・・・ずっと続いていって、王陽明は孟子、孟子は孔子と、その思想の源流がわかってくるわけです。そして、梅岩は儒教の影響を強く受けています。さかのぼっていくと、中江藤樹がいて、その先に王陽明がいて、その先に孟子がいて、最後は孔子にまでたどり着くのです。
 DNAリーディングとは、ある意味でマッピング術です。つまり、自分の心の中に地図やインデックスをつくって、いま読んでいる本や著者が「どのへんに位置するのか」を探り、時間軸と空間軸でマッピングするのです。

●人文知とは何か
 じつは今、「読書」に関する本がよく読まれています。また、「人文知」という言葉が時代のキーワードになっています。その中で、『人文知は武器になる』山口周・深井龍之介著(文春新書)という本がよく売れています。
 人文知(哲学、歴史、文学、社会学など)は、変化が激しく正解のない現代社会を生き抜くための最強の生存戦略の武器になるとされています。その理由は主に4つで、①前提を疑う力(常識を疑う・問題の本質を見抜く・他者と違う視点を持つ)、②文脈を読む力(歴史のパターンを学ぶ・時代の変化を予測する・他人の感情に共感する)、③軸を作る力(自分の価値観を持つ・情報に流されない・困難な決断を下せる)、④言葉にする力(複雑な思考を整理する・人の心を動かす・ビジョンを共有する)です。
 『人文知は武器になる』では、戦争の時代において「どうすれば戦争をなくせるか」ということを考える人や企業が最も評価されるとも述べられています。わたしは、戦争をなくすにはグリーフケアを普及させることが必要であると、ずっと考えてきました。なぜなら、戦争とはグリーフ(悲嘆)の発生装置であり、グリーフケアを知れば、戦争など起こせなくなるからです。それに、グリーフケアというのは哲学、文学、芸術、宗教などのエッセンスを再編集した「人文知」そのものではないでしょうか。同書には、「人類は『儀式』をしなければ合意形成できない」という興味深い内容も書かれていました。儀式とグリーフケアのパイオニアであるわが社の未来は明るいと思った次第です。

 本を読み 人の心を支へつつ
  平和をつくる知をば目指さん  庸軒