「空」とは「永遠」のことだった!『般若心経』の真意を知る
●8月は死者を想う季節
今年も8月がやってきました。 日本人全体が死者を思い出す季節です。 6日の「広島原爆の日」、9日の「長崎原爆の日」、12日の御巣鷹山の日航機墜落事故の日、そして15日の「終戦の日」というふうに、3日置きに日本人にとって忘れられない日が訪れるからです。
そして、それはまさに日本人にとって最も大規模な先祖供養の季節である「お盆」の時期とも重なります。まさに8月は「死者を想う季節」と言えるでしょう。
こんな時期に、わたしは『般若心経 自由訳』(現代書林)を上梓しました。『慈経 自由訳』(三五館)の姉妹本というべきものですが、『慈経』が上座仏教の根本経典であったのに対し、『般若心経』は日本などで盛んな大乗仏教を代表する経典です。仏教には啓典や根本経典のようなものは存在しないとされます。しかし、あえていえば、『般若心経』が「経典の中の経典」と表現されることが多いです。
●『般若心経』とは何か
『般若心経』は、古代よりアジア全土で広く親しまれてきました。日本においても、戦時中に仏教各派が合同法要を営もうとしたとき、一緒に読める唯一の経典として『般若心経』の名前があがったことがあります。しかし、浄土真宗が強硬に反対して、この企画自体が立ち消えになったといいます。
それはさておき、『般若心経』は中国仏教思想、特に禅宗教学の形成に大きな影響を及ぼしました。玄奘(げんじょう)による漢訳『般若心経』が日本に伝えられたのは8世紀、奈良時代のことです。遣唐使に同行した僧が持ち帰ったといいます。以来、1200年以上の歳月が流れ、日本における最も有名な経典となりました。
今年の4月8日、ブッダの誕生日である「花祭り」の日に、わたしは『般若心経 自由訳』を完成させました。「空」の本当の意味を考えに考え抜いて、死の「おそれ」や「かなしみ」が消えてゆくような訳文としました。美しい写真を添えて、お盆までには上梓したいと思っていました。
●玄奘と空海に報告する
その後、わたしはアジア冠婚葬祭業国際交流研究会の一行と中国の西安に行きました。ここは、かつて「長安」の名で唐の都として栄えました。ここにある大雁塔は、玄奘が天竺(インド)から持ち帰った経典や仏像などを保存するために、高宗に申し出て建立した塔です。大雁塔を訪れたわたしは、玄奘の像に『般若心経』を自由訳した報告をしました。
続いて、わたしは青龍寺を訪れました。ここは、弘法大師空海ゆかりの寺として知られています。四国88箇所の「〇番札所」としても有名で、お遍路さんがよく訪れます。
じつは、『般若心経』を自由訳するにあたって、わたしは空海の『般若心経秘鍵』をベースにして解釈しました。ですので、わたしは空海記念碑に向かって、『般若心経』自由訳の報告をしました。玄奘と空海の2人に報告を果たせて、感無量でした。
●「空」とは「永遠」のことである
6月21日に開催された葬祭責任者会議で、わたしは社長訓話を行いました。そこで、『般若心経 自由訳』をテキストにして話しました。いつもはセレモニーホールの支配人までですが、この日は副支配人も加わって人数が増えました。会場は、小倉紫雲閣の「鳳凰の間」でした。
葬祭責任者たちの前で自由訳を披露するのは初めてです。わたしは、これまで、日本人による『般若心経』の解釈の多くは間違っていたように思うと述べました。なぜなら、その核心思想である「空」を「無」と同意義にとらえ、本当の意味を理解していないからです。「空」とは「永遠」にほかなりません。
「0」も「∞」もともに古代インドで生まれたコンセプトですが、「空」は後者を意味しました。わたしは、「空」の本当の意味を考えに考え抜いて、死の「おそれ」や「かなしみ」が消えてゆくような訳文としました。
「空」とは実相世界であり、あの世です。
「色」とは仮想世界であり、この世です。
●最後の呪文の意味とは
最後に出てくる「羯諦羯諦(ぎゃあてい ぎゃあてい)」が『般若心経』の最大の謎であり、核心であると言われています。古来、この言葉の意味についてさまざまな解釈がなされてきましたが、わたしは言葉の意味はなく、音としての呪文であると思いました。
そして、「ぎゃあてい ぎゃあてい」という古代インド語の響きは日本語の「おぎゃー おぎゃー」、すなわち赤ん坊の泣き声であるということに気づいたのです。
人は、母の胎内からこの世に出てくるとき、「おぎゃあ、おぎゃあ」と言いながら生まれてきます。「はあらあぎゃあてい はらそうぎゃあてい ぼうじいそわか」という呪文は「おぎゃあ、おぎゃあ」と同じことです。すなわち、亡くなった人は赤ん坊と同じく、母なる世界に帰ってゆくのです。
「あの世」とは母の胎内にほかなりません。ですから、死を怖れることはありません。死別の悲しみに泣き暮らすこともありません。「この世」を去った者は、温かく優しい母なる「あの世」へ往くのですから。
『般若心経』とは、多くの日本人にとってブッダのメッセージそのものかもしれません。そして、そのメッセージとは「永遠」の秘密を説くものであり、「死」の不安や「死別」の悲しみを溶かしていく内容となっています。わたしの講話を聴いた葬祭責任者たちは、まるで悟りを開いた高僧のような清々しい顔をしていました。
葬祭スタッフはもちろん、営業スタッフもMSスタッフもみな『般若心経』の真意を知り、日々の業務に活かしていただきたいです。
永遠の秘密を知りて死を超ゆる
旅立つ先は母なる世界 庸軒