あらゆる仕事には意味がある 本当の成果とは何だろうか?
●意味のない仕事などない
ついに政権交代が実現しました。9月1日からは消費者庁がスタートしました。日本は大きく変化し、わたしたちの冠婚葬祭互助会業界を取り巻く環境も同様に変化していきます。
さて、いつも思うことですが、あらゆる仕事には社会に存在する意味があります。もっとも麻薬や人身売買、武器の密売をはじめとする反社会的な仕事は別ですが。
わたしの愛読書『星の王子さま』を書いたサン=テグジュペリは郵便飛行機のパイロットでした。1930年代から40年代のことです。現在とは違って、当時のパイロットは死ぬ確率が非常に高く、危険な仕事として嫌われていました。
しかし彼は、パイロットという仕事を軽く見てはいませんでした。それどころか子どもの頃から憧れ続けた仕事であり、心からの誇りをもっていました。郵便物を配達する路線飛行士となったとき、彼は「どんなことがあっても郵便物を無事に運び、けっして時間に遅れないこと」をモットーとしました。
●点灯夫の素敵な仕事
『星の王子さま』には、夜と昼のめまぐるしい交代に合わせて休みなく街頭の灯を点けたり消したりする点灯夫が登場しますが、彼についてこう書かれています。
「点灯夫が街灯に灯をともすとき、それはまるで彼が新しい星や一輪の花を誕生させたかのようです。彼が街灯の灯を消すときに、その花も星も眠ります。これはとても素敵な仕事です。素敵だから本当に役に立つのです。」
わたしはこの言葉が大好きでよく話します。わが社は接客サービス業ですが、お客さまに接する現場のスタッフも、総務や経理などの現場を裏でサポートするスタッフも、ともに本当に役に立つ素敵な仕事をしているのだということを説明します。
王子さまは多くの星をめぐって色々な人に出会いますが、点灯夫だけとは友だちになってもよいと思いました。
●仕事を義務化してはならない
でも、この点灯夫のエピソードには注意点もあります。もともと彼の仕事は役に立つ素敵な仕事だったのですが、仕事を自分の中で義務化してしまい、自分で自分をどんどん忙しくしていきました。そして、ついには、意味もなくめまぐるしく灯りを点けたり消したりするようになってしまいました。彼は自分を見失ってしまったのです。点灯という仕事からは意味が失われ、単なる目的と化してしまったのです。
わたしたちの周囲にも、しなくてもよい仕事や意味のない仕事に取り組んで勝手に忙しがっている人はいないでしょうか。
また、点灯夫は労働者のシンボルですが、完全に管理された存在であり、何も考えずにベルトコンベアー式の労働に従事させられている側面もあります。
●成果と陰徳
ここで、「成果」という言葉について考えてみたいと思います。あらゆる仕事には成果があります。経営学者ドラッカーも、成果をあげなければ仕事をする意味はないと述べています。では、本当の成果とは何でしょうか。成果とは、すぐさま目に見える形で現れるものなのでしょうか。
これまで、成果主義というものが声高に叫ばれてきましたが、最近はどうも行き詰まってきているようです。
大事なことは「陰徳」を積むということではないかと、わたしは思います。古代中国の学者・淮南子に「陰徳ある者は必ず陽報あり、陰行ある者は必ず昭名あり」という言葉があります。
人知れず善行を積んだ者には、必ず天があらわに幸福を報い授ける。また隠れた善行のある者は、必ずいつかは輝く名誉があらわれてくるというのです。
陰徳を積むとは、心を貯金することです。「心に貯金」ではなく、「心を貯金」です。それは、わたしたちの心そのものを、つまり人間の元金を積んでいくことなのです。黙々と人知れず徳を積んでいくと、そのうち誰かが手伝ってくれるようになる。すると、自分が努力した以上に「徳高」が知らない間に上昇していることを感じるのです。
●木を植えた男の物語
南フランス、プロバンス生まれの作家ジャン・ジオノが書いた『木を植えた男』という本をご存知ですか。フランスの山岳地帯に一人とどまり、何十年もの間、荒れ果てた山にドングリを埋め、木を植え続け、ついには森を甦らせたエルゼアール・ブフィェという男の物語です。
木を植えるという仕事は単調なことの繰り返しです。誰に誉められることもなく、達成感を得ることもない。しかし、とにかくブフィェはそれを根気強くやり続けます。
木を植える仕事は現在ではなく、未来へ向けた仕事です。なぜなら、木が育つには100年も200年もかかるからです。つまり、自分が生きている間にはその成果を見届けることはできないのです。
それでも、ブフィェは木を植え続けます。彼には、生きている間に成果を見ることなど関係ありません。むしろ逆に、自分が死んだ後に残っていく仕事であるからこそ、やりがいがあると思っているのかもしれません。
成果はもちろん大切です。でも、自分はこれだけのことをやったのだと自慢し、他人から誉めてもらうことを期待する人が多すぎるのではないでしょうか。
誰にも誉められなくても、後世の人々、後進の人々のために役に立つ仕事をする。その成果を見ることができなくとも、日々の業務に黙々と打ち込む人は偉大な人だと思います。
自らの仕事に意味を見出して
成果を残す人ぞ偉大よ 庸軒