マンスリーメッセージ サンレーグループ社員へのメッセージ 『Ray!』掲載 2022.11

悲しみの共同体とは何か? コンパッション都市を創造しよう!

●アントニオ猪木さんの葬儀
先月は亡くなられた稲盛和夫氏の哲学を紹介しましたが、今年は本当にわたしが尊敬していた方がよく亡くなられます。「燃える闘魂」ことアントニオ猪木さんもその一人です。猪木さんの通夜・告別式は、戒名、祭壇、遺影、赤い闘魂タオル、BGM、出棺、猪木コール・・・まさに「アントニオ猪木さんらしい」お別れでした。
さらに、猪木さんは、日本人の死生観にも大きな影響を与えたように思います。難病の「全身性トランスサイレチンアミロイドーシス」と闘い、その様子を公開することでファンのみならず一般の人々にも元気を届けました。その猪木さんは生前、その行動の真意とも言える「死についての考え」をスポーツ紙のインタビュー取材で独白していました。大ヒット日本映画「おくりびと」を引き合いに「これからは『死と向かい合う』っていう、そういうことへのメッセージを送らないといけないと思っています。『おくりびと』って、一時期はやったと思うんだけど、いわば『おくられびと』というね」と、決意表明ともとれる言葉を口にしました。

●青木新門さんの「お別れの会」
「おくりびと」といえば、映画の原案者である作家・青木新門さんの「お別れの会」が富山で開かれ、わたしも参加いたしました。
映画「おくりびと」が第81回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞してから、ずいぶん時間が立ちましたが、あの興奮は今でも憶えています。日本映画初の快挙でした。
青木さんの著書『納棺夫日記』を原案とした映画「おくりびと」が公開されたことは葬祭業界においても非常に大きな出来事でした。映画の中での美しい所作と儀式は、お客様が望む葬儀の在るべき姿を映画というメディアで表現してくれました。ご遺族が大切にしている方をこうも優しく大事に扱ってくれるということはグリーフケアの上でも大切なことでした。『納棺夫日記』と「おくりびと」のおかげで葬祭スタッフに対する社会的地位も変わったのではないかと感じるところもあります。何よりも、自分の仕事へのプライドを彼らに与えてくれました。
青木さんの「お別れの会」では、故人の書斎が再現されていましたが、その書棚の中には『唯葬論』(三五館)や『永遠葬』をはじめ、多くの一条本がありました。

●コンパッション都市の発見
さて、今月18日、わが社は創立56周年を迎えますが、わが社のこれまでの歩を象徴するようなキーワードに出合いました。「コンパッション」という言葉です。
大正大学で宗教学者の島薗進先生が行われた特別講義で初めて「コンパッション都市」というものを知りました。それは、「老、病、死、喪失を受けとめ、支え合うコミュニティ」であり、一言でいえば「悲しみをともにする共同体」です。
その概念は、1986年の「健康づくりのためのオタワ憲章」(WHO)の原則に基づきながらも、それを人生最終段階ケアに適用し、共同体の責任としたものです。この共同体モデルでは、死にゆく人と非公式の介護者が社会的ネットワークの中心に置かれているという図を見ることができます。都市としては「コンパッション都市」と呼ばれますが、まさに互助会が創造すべきコミュニティのモデルだと思います。

●「コンパッション」とは何か
英語の「コンパッション」を直訳すると「思いやり」ですが、思いやりは「仁」「慈悲」「隣人愛」「利他」「ケア」に通じます。「ハートフル」と「グリーフケア」の間をつなぐ概念も「コンパッション」です。
最近、米国バーモント大学臨床教授(パブリックヘルス、エンドオブライフケア)で医療社会学者のアラン・ケレハーの著書『コンパッション都市』が慶應義塾出版会から翻訳出版されましたが、その冒頭には「生命を脅かす病気、高齢、グリーフ・死別とともに生きる市民がいます。また家庭でケアを担う市民がいます。そんな境遇にあるすべての市民を手助けし、支援するために組織される地域コミュニティ、それがコンパッション都市・コミュニティです」と書かれ、この用語の中心には、互恵性(reciprocity)と具体的行動(action)という考え方があります」と書かれています。
「互恵」とは「互助」ということでもあり、互助共生社会の実現のために具体的行動を続けるわが社にとって、「コンパッション」はまさにドンピシャリの究極のキーワードであると思います。

●コンパッショナリー・カンパニーへ!
現在、「SDGs」が時代のキーワードになっていますが、これは2030年で終わります。その後、「ウェルビーイング(wellbeing)という言葉が主流になると言われていますが、わが社ではすでに40年も前から使っていた言葉です。「ウェルビーイング」は健康についての包括的概念ですが、じつは決定的に欠けているものがあります。それは「死」や「死別」や「グリーフ」です。これらを含んだ上での健康でなければ意味はなく、まさにそういった考え方が「コンパッション」なのです。つまり、「ウェルビーイング」を超えるものが「コンパッション」であると言えます。
ケレハーによれば、コンパッション都市の主体となるのは、地方自治体、葬儀会社、グリーフや緩和ケアに携わる組織です。また、コンパッション都市実現のための具体的行動案として、「移動型の死への準備教室」「ご近所見守りパトロール」「コンパッション関連書の読書クラブ」「死を描いた映画の上映会」などが挙げられています。わが社の活動そのものです。
これからのサンレーは、「コンパッショナリー・カンパニー」を目指します!

老いと死と死別と病 受けとめし
悲しみの街 幸せの道  庸軒