呻吟語を読む

著者：安岡正篤

出版社：致知出版社

明末の儒者である呂新吾が著した『呻吟語』は人間練磨の書として知られ、安岡正篤が生涯をともにした一冊である。その座右の書について語った講演録が本書だ。
『呻吟語』の全巻を貫く思想は、「深沈厚重」と「安重深沈」の二つの言葉にあらわされる。「深」というのは深山のごとき人間の内容の深さであり、「沈」は「沈着毅然」ということである。「厚重」は重厚、重鎮と同じで、どっしりとしていて物事を修めるということである。
上に立つ人間は、それぞれの立場において重鎮することが必要だ。言い換えると、その人が黙っていても治まるということ。あくまでも「治まる」のであり、「治める」のとは内容が違うが、これが第一等の人物であるという。
ちなみに第二等の人物とは、あっさりしていて腹中に大きなものを養っている人である。そして第三等の人物とは、聡明で弁も立つ人である。もちろん、第二等や第三等の人物が悪いということではない。それぞれの持ち味があり、その持ち味をいかに生かすかということが大切なのだ。
「第一等」などという表現からもわかるように、『呻吟語』には数字があふれている。たとえば、「三つの不純」「四つの難」「五種の人柄」「道を志す者の七見識」「人豪の八景」「人間の九つの品格」などなど。
どれもが「言い得て妙」であり、表現は悪いが、人生のカンニングペーパーとして使える。興味のある方は、ぜひ本書をご一読あれ。