【人間学】運命を高めて生きる
著者:渡部昇一
出版社:致知出版社
新渡戸稲造といえば、五千円札の顔であり、ロングセラー『武士道』の著者としても知られる。その彼には、知る人ぞ知る『修養』という大著があった。本書は、『修養』に出てくる、よく生きるための役立つ考え方や生活の工夫を多数紹介している。
明治・大正期には「修養」の大ブームが起こった。日本が一番いい時代に最もはやった言葉の一つが「修養」だったのである。一番いい時代というのは、憲法が発布され、日清戦争に勝ち、日英同盟を結び、日露戦争に勝ち、大正デモクラシーが起こって、毎年毎年日本の繁栄が目に見えて進んでいくようなポジティブな感じのある時代である。その頃に「修養」をテーマにした本が多く出版され、新渡戸の著書はその代表的存在だった。
それでは、「修養」とは何か。新渡戸は、修養の「修」は修身の修、つまり「身を修むる」意味であり、「養」は「心を養う」の意味だと述べている。養という字は「羊の食」と書く。つまり新渡戸は、修養の根本的な目的とは自分を修めることであると同時に、仔羊のような幼稚で愚かな心を養って横道に逸れないようにしていくことであると言っているのだ。本書には、そのための具体的な方法が豊富に紹介されており、いずれも現代において通用するものばかりだ。
ちなみに、キリスト教をはじめ、儒教でも仏教でも、いい教えは何でも取り入れた『修養』は、日本の心学の伝統を受け継いだ新心学の書であるという著者の指摘は興味深い。