【人間学】歴史は人を育てる
著者:渡部昇一
出版社:致知出版社
「十八史略の名言に学ぶ」というサブタイトルがついているが、著者は、『十八史略』に出てくる話が、いかに日本人の共通の知識になっていたかに驚かされることがよくあるという。
特に戦前の文人の書いた論文や随筆などを読むと、『十八史略』を踏まえた表現が実に多い。著者自身のことを考えてみても、『十八史略』に出てきた事件や格言は頭に染み込んでおり、ろくに意識しないで書くことや話すことにそれが出てくるそうだ。それは欧米人の書いたものに、聖書に基づく表現が多いのに似ているというのである。
日本人の東洋の知識の共通項として、最も便利で有力だったものの一つが『十八史略』だ。江戸時代でも、『十八史略』に出てくる表現や、その元になったエピソードを知らないような人間は武士として落第だったという。
著者は、『十八史略』について知ることは精神を「大人として成熟させる」ために大いに役立つと断言する。そして、そのエッセンスというべき本書が生まれたのである。
ページを繰ると、「臥薪嘗胆」「孟母三遷」「寧ろ鶏口と為るも牛後と為ること無(なか)れ」「先ず隗(かい)より始めよ」「燕雀安(な)んぞ鴻鵠の志を知らんや」「三顧之礼」「哭いて馬謖を斬る」「創業と守成と孰(いず)れが難き」といった有名な言葉がずらりと並んでおり、その解説も非常にわかりやすい。日本人というより東洋人としての必読書だろう。