【人間学】「為政三部書」に学ぶ
著者:安岡正篤
出版社:致知出版社
著者は昭和の哲人・安岡正篤の次男である。縁あって日本通運で会社員人生を送ったが、初めて地方の支店長を命ぜられて赴任したとき、不安な焦燥感に駆られたという。その感情を取りのぞいたのが『為政三部書』だった。
本書は、昭和13年、満州事変から日華事変へと発展してゆく日本の前途を憂慮した安岡正篤が政・官・財の指導者に警鐘を鳴らすため、中国元朝の名臣・張養浩(ちょうようこう)の『三事忠告』を訳注して『為政三部書』と改題して出版したものである。
張養浩が王道政治を説いた刮目(かつもく)の警告書だが、内容は「廟堂(大臣)忠告」「風憲(法務観察)忠告」「牧民(地方長官)忠告」の三部から構成され、それぞれの任務に就いたときの心得が彼の実体験をとおして書き綴られている。そこには誠実な国への想い。民衆への想い、そして深い見識が込められており、読む者の胸を打つ。安岡正篤ほどの達人がはじめて読んだときに感激したのも納得できる名著である。
さらには、指導者としての出処進退、特に「退」という、晩年の名節を汚さないための人間的な処し方が忠告されている。
著者が会社員生活を終えた後、この書にも書かれている「務めを終えて仕事から離れることは重荷を背中から取りおろすことである」という意味の一文をしみじみと味わったという。本書には、帝王学の第一人者の子として生まれ、自らは良き会社員として任を全うした著者の人生そのものが反映している。
わたしは本書を読んで、安岡正泰という人に強い興味を抱いた。