【人間学】できる人になる生き方の習慣
著者:渡部昇一
出版社:致知出版社
もともと『ヒルティに学ぶ心術』と題された本を改題し、新装普及版として刊行したものである。カール・ヒルティは、スイスの哲学者にして法学者として知られる。彼の『幸福論』や『眠られぬ夜のために』などの著者を愛する人は日本人にも多い。
ヒルティは、「仕事に対する一日の区分が問題である」とか「小さな時間を利用する。断片的な時間を利用する」など、仕事術や時間のつくり方に関する名言が多く、ドラッカーのタイム・マネジメントを連想させる。
しかし、わたしが数あるヒルティの言葉の中で最も好きなのは、「病気は人生の喜びの一つを与えてくれる。それは、回復の快感と、新たになった生活観の快適さである」だ。自分が病んでいるとき、また、病気の他人を見舞うとき、この言葉を何度口にしたかわからない。ヒルティこそは人生の達人だと思う。
ヒルティが非常に日本で人気があったのは、純粋キリスト教的な魂の深さのみならず、直接には宗教と関係のない人間的美徳というものの価値を彼が認めたことが大きいだろう。特に、ストア派の哲学者であるエピクテートスの考え方を重視している。エピクテートスは人間を向上させるための生き方を宗教を抜きにして説いた人だ。
著者は、このヒルティの態度が石田梅岩の心学によく似ていると、別の著書で述べている。ヒルティとは、「ええとこどり」で幸福を語ったヨーロッパの心学者だったのである。