平成心学塾 図書篇 ブック・セレクション #039

【人間学】「南洲翁遺訓」を読む

「南洲翁遺訓」を読む

著者:渡部昇一

出版社:致知出版社

 

西郷隆盛という人は、とにかく大人物であったらしい。自身も大物ぶりを存分に発揮したあの坂本龍馬でさえ、「大きく叩けば大きく響き、小さく叩けば小さく響く。馬鹿なら大馬鹿だし、利口なら大利口だ」と西郷を評している。その稀代の大人物の言葉を集めたものが『南洲翁遺訓』である。著者は半世紀以上にわたって、この『南洲翁遺訓』について読み、考えてきたという。
英文学者の福原麟太郎は、「シェイクスピアについての一番よい注釈は、くぐった門松の数である」と述べたそうだが、古典的な作品、あるいはそうでない作品でも、年齢によって読み方が変わってくるものだ。
『南洲翁遺訓』を12歳の頃に知って以来、気にしていたという著者は、時にその言葉を反芻し、またそれに直接間接関係のある本も読んできたという。そして、ついに南洲の享年よりも15歳も年上になって初めて、自分が南洲について述べてもよい歳になったのではないかと思ったという。
さすがに半世紀もの思考の熟成を経た著者の達意の『南洲翁遺訓』解説は読者の心魂に迫るものがある。全43講には、松下幸之助や秋山好古やゼロ戦のエース坂井三郎やノーベル経済学賞受賞者のハイエクなど、意外な人物が次々に登場して、しかも彼らのエピソードが実に遺訓の理解を助けてくれるのである。本書は、西郷隆盛の遺訓を読むための最高の解説書でありながら、同時に渡部昇一という人の思想的真髄がわかる本である。