平成心学塾 図書篇 ブック・セレクション #022

【安岡正篤】経世瑣言(総編)

経世瑣言(総編)

著書:安岡正篤

出版社:致知出版社

 

本書は、昭和9年から19年というわが国の歴史上最も狂乱怒涛の大激動期に書かれた。この時局に昭和の哲人・安岡正篤はいかなる見識を持ち、指導者の育成に当たったかが本書を読むとよくわかる。
「経世」とは、経世済民の経世で、「瑣言」の「瑣」は壁玉(へきぎょく)の砕かれた片々を意味する。つまり、経世についての片々たる文章という意味だが、そこには玉片のように、きらりと光る文章という義が込められている。もともと『経世瑣言』には正・続・全など各種あるが、本書は総編数61篇のうち47篇が収められている。
赤穂浪士の数と同じ47の文章はいずれも鋭い洞察と憂国の熱情があふれているが、中でも「いかなる人物が天下を救うか」という一篇に非常に感銘を受けた。安岡正篤は、「昭和維新」を夢見る満天下の志士に対して「革命家たらんよりはまず求道者たれ」と呼びかける。そして、「いかなる人材勢力を以てしても、要するに逆を以て動いては駄目である。あくまでも正々堂々と大義により、名分を忽(ゆるが)せにしてはならぬ。人間を動かすものは利害であるなどと考えている間は天下を論ずるに足らぬ。それは「真の利害」すら分からぬのである。人間を動かす最も厳粛博大なるものはやはり大義名分である」と力説するのである。
「人の心はお金で買える」とほざいた経営者や、彼を選挙に担ぎ出した政治家たちに読ませたい一文である。なぜ、多くの宰相をはじめとした本物のリーダーたちが安岡正篤を心の師としたのか。わたしは本書を読んで、その理由が初めてわかったように思う。