平成心学塾 図書篇 ブック・セレクション #020

【おすすめ】教養のすすめ ~明治の知の巨人に学ぶ~

教養のすすめ ~明治の知の巨人に学ぶ~ 

著者:岡崎 久彦

出版社:青春出版社

 

本著は、元外交官で各国の駐在大使を歴任し、現在は岡崎研究所の所長を務める岡崎久彦氏の著作である。
西郷隆盛、勝海舟、福沢諭吉、睦奥宗光、安岡正徳彼らは近現代日本を駆け抜けていった偉人として、広く世に知られた存在である。ですが、彼らの本当の業績やそれを支えた背景について正しく理解できる現代人はあまり多くない。著者は、彼らに共通する一つの事実、それはその生涯に死にもの狂いの勉学や超人的な修行をしていることを挙げ、彼らが如何にして並外れた教養を身につけたかについて、自身の漢籍の教養を以て、尊敬と畏敬の念をこめて紹介している。かつて日本には、国民全体が努力次第でエリートとなれた時代があり、たとえ出自が貧しくとも、その才能を周囲が伸ばそうと援助しあう気風があった。そうして並外れた教養を積んだ彼らの私心を捨て去った奮闘のお陰で、日本は開国以来、他のアジア諸国と違い欧米諸国による植民地化を免れたと言っても過言ではないのである。著者は、日本が彼らのような逸材を全国レベルで輩出し続け、国家を支えてきた背景に、後漢に匹敵する文治時代・江戸時代から連綿と続く「修養の伝統」があったと述べている。その伝統は『学校』を通して受け継がれ、優れた人材は国家の財産として、並外れた修養を積ませ、心身共に鍛え上げる真の国家エリートとして育成するシステムが存在したのである。しかし終戦後、戦勝国は日本を弱体化される目的から、こうした伝統を徹底的に排除し、日本の教育システムを変換させてしまった。結果、現在になってこうした強引な措置の歪み(悪平等の横行、児童の学力低下、モラルの欠如、国際外交での不手際など)がいたる所で現れている。こうしたことから著者は、改めてかつて存在した日本の優れた教育の伝統を取り戻し、国家を運営し、国際競争に対処する大局的視点を持てる政治家や官僚エリートを育てる教育を行わなければならないと訴えている。そしてそうした意味でも、人が幼少より教養を積む事の重要性を説いているのである
かつて、日本の発展にその全てを捧げた偉人たちの生涯をたどり、心身両面を鍛える教養の重要性と失われた日本人の真の強さの復活を願う名著である。