平成心学塾 図書篇 ブック・セレクション #034

【人間学】修己治人の書『論語』に学ぶ「人の長たる者」の人間学

修己治人の書『論語』に学ぶ「人の長たる者」の人間学

著者:伊輿田覺

出版社:致知出版社

 

安岡正篤の高弟であり、7歳から80年以上ものあいだ『論語』を学び続けた著者の『論語』についての講義を集大成したもの。
全部で12の講義が収録され、その内容も「成人と人間学」「小人の学」「大人の学」「人間の天命」「人間の真価」「恥と日本人」「弘毅と重遠」「君子とは何か」「道理のままに生きる」「中庸の道を往く」「孤独と不安」「『論語』と現代」といったように、題名を聞いただけでも背筋が伸びるようなものばかりである。
講師である著者も、90歳を超える高齢にもかかわらず、約3時間を立ったまま背筋をピンと伸ばして、粛々と話すという。聖賢の学を究めた人独特の風格が、その講義内容にも漂っている。
本書の「あとがき」で致知出版社の藤尾秀昭社長が述べておられるが、学問には四つの段階があるという。すなわち、「修学」「蔵学」「息学」「遊学」である。もっぱら修め、蓄積するのが先の二段階。そこを過ぎると、学ぶことが呼吸するのと同じように自然なものになるという。そして、ついには学びが自己と一体化するのだ。完熟した著者の学問は、その領域に入っていると藤尾社長はいう。
わたしは「人は老いるほど豊かになる」と信じているが、著者は孔子よりも師である安岡正篤よりも長く生を恵まれることによって、前人未到の思想的領域に立った感さえある。豊かな人生を生きる達人の言葉を前に、若輩はただ頭を垂れるばかりである。