平成心学塾 図書篇 ブック・セレクション #066

【ドラッカー】断絶の時代

断絶の時代

訳:上田惇生

出版社:ダイヤモンド社

 

本書はドラッカーの代表的なベストセラーの一つだが、40年近く前の本だとは思えないほど、タイトルといい、内容といい、昨日書かれたばかりのもののように読める。
『マネジメントを発明した男 ドラッカー』の著者ジャック・ビーティも言うように、現代の思潮や感覚を理解するための概念として、『断絶の時代』という診断は的を得ていると思われる。ただ、ベトナム戦争や学生運動、公民権運動といった政治的な動きをすべて無視しているにもかかわらず、真実は隠れたところに存在するという信念が行間から伝わってくることを考えれば、きわめて60年代的な書物だと言えるだろう。
ドラッカーは社会の根底で起こりつつある変化、すでに起こった断絶を明らかにしようとした。関心は、世界地図を変える戦争ではなく、大陸を変える地下のプレート移動にあった。彼の言う「断絶」とは、社会と文明における根源の変化である。
当時、断絶という言葉は珍しかった。断絶と変事の違いは何か。変事とはいわば地震や噴火であって、地形を変える。だがそれは、地殻の変動、ドラッカーの言う断絶によってもたらされる。昨日と今日のきしみの蓄積としての断絶が原因となっている。変事が激しく目を引くのに対し、断絶は静かに進行する。地震や噴火として現われるまでは、気づかれることもない。
本書は、第二次世界大戦は新しい時代の始まりというよりも、一つの時代の終わりであることを示した。当時は、多くの人たちが、過去を取り戻そうとしていた。これに対し、本書は未来を見た。すでに元に戻すことのできない変化が起こったことは、誰にもわかっていた。少なくともそう感じられていたが、当時叫ばれた多くのスローガンや政策は、いずれも昨日の現実からのものだった。
しかし、本書の刊行から今日にいたる間、歴史はドラッカーの分析の正しさを示した。サッチャーが推進した政府現業部門の「民営化」の構想も本書で発表されたものである。
本書は、4つの分野で断絶が起こったことを明らかにした。それは第一に、新技術、新産業の出現。第二に、グローバル化と南北問題の顕在化。第三に、政治と社会の多元化。第四に、知識社会の出現と社会的責任への意識の高まりである。
ドラッカーは後に、人口構造の変化という断絶を加えたいと述べた。社会の根底で起こっている断絶は現在進行形であり、本番はいよいよこれからである。