【おすすめ】1000の風 ~あとに残された人へ~
訳者:南風 椎(はえ しい)
出版社:三五館
本書は、すでに世界各国で愛され続けている作者不明の英語詩A THOUSAND WINDSの日本語訳版である。現在日本では、NHKの紅白で曲を付けて歌われた“千の風になって”が有名であるが、三五館の星山佳須也社長がこの詩に着目し、出版された。余計な意訳や演出は一切付けず、美しい自然の写真を添えて、人々の心にそっと訴えかけるような内容となっている。その後、2003年朝日新聞の天声人語の欄でも紹介され、次第に日本人の間に広がっていった。
“わたしの墓石の前に立って涙を流さないでください。私はそこにはいません。眠ってなんかいません”このフレーズで始まる英詩でわずか12行の短い詩。この詩は、国境を問わず愛する人と死別した多くの人々に感動と慰めを与えている。生者が死者を悼む詩は多くとも、死者から生者へ「自分は死んではいない」と訴えかけるこのメッセージは希有で、人々の心へ強く訴えかける力がある。英国では1995年、BBCが放送して大きな反響を呼び、アイルランド共和軍(IRA)のテロで亡くなった24歳の青年が「ぼくが死んだ時に開封して下さい。」と両親に託していた封筒に、この詩が遺されていた。また、米国では同時多発テロで亡くなった父親を偲んで少女が朗読し、1977年にはすでに、映画監督ハワード・ホークスの葬儀で俳優のジョン・ウェインが朗読。1987年、女優マリリン・モンローの25回忌にも朗読された。そして日本は、もともと神道の国であり、周囲のすべての物に魂や霊性が宿ると信じられてきた。そんな私たちにとって、この詩はすんなりと理屈抜きで心の中へ溶け込んでいき、悲しみを癒してくれるのである。この詩はまさに『グリーフ・ワーク(悲しみを癒す仕事)』を体現した作品である。まさに、風のように人々の心の中を吹き抜け、癒していく生命(いのち)の詩(うた)なのである。