【おすすめ】思いやりのある生活
著者:ダライ・ラマ十四世(テンジン・ギャムツォ)
出版社:光文社 智恵の森文庫
本著は、ノーベル平和賞受賞者としても名高い、ダライ・ラマ14世による著作である。ダライ・ラマやチベットについて、その世界的な知名度とは裏腹に、日本ではあまり知られていないのが現状である。ダライ・ラマとは、モンゴル語の尊称でメ智恵の海モを意味する。人々を救う為に死後も涅槃に入らず、輪廻転生で生まれ変わる観音菩薩の化身とされ、歴代のダライ・ラマは、この尊称を受け継ぐ。ダライ・ラマが没すると、高僧たちの予言に基づいて、次代ダライ・ラマの捜索が行なわれる。予言の内容に合致する乳児が見つかると、厳正な調査とテストが行われ、それをパスして初めてダライ・ラマの転生として認定され、宮殿で育てられる。現在は、中国軍の侵攻による自身とチベット民衆に加えられた弾圧や、抵抗したチベット民衆が一斉蜂起した際の混乱から逃れるため、ダライ・ラマ14世はインドに亡命し、そこで臨時政府を樹立している。
亡命先のインドでも一貫した非暴力主義による平和的解決で、チベット問題や環境問題に取り組み、その功績を讃えられている。本著もそうした立場から、人の心が抱える問題点や矛盾点を鋭く分析している。“他者への思いやりの心”や、“本当の敵(内なる憎しみ、嫉妬など)”に目を向け、それを克服すること、そして思いやりや忍耐力を持って人間の相互理解に努めることが、最終的には世界レベルでの平和へつながっていくのだと、チベット仏教の視点も混じえながら優しく説いている。その激動の半生を通してなお高潔で、明るく純粋な魂を失わない著者の主張には、安易な“癒し本”では絶対に得られない真理が込められているのである。
人が幸福な人生を送るためにはどうすればよいのか?ハートフル・ソサエティへの答えの一つが、本著には込められている。