平成心学塾 図書篇 ブック・セレクション #058

【人間学】中村久子の生涯

中村久子の生涯

黒瀬次郎編述

出版社:致知出版社

 

中村久子の自伝五冊に基づいて、その生涯を忠実に記録した本。著者が中村久子の存在を知ったのは、テレビ番組によってだという。
そこに映し出された僧侶が、「女性の身で、しかも両手両足を失いながら、国の援助を一切受けないで、これほどまで見事に人生を生きぬいた人はまァいないですね」と語ったのだ。そのひと言は著者の心をとらえ、大変な驚きを与えた。まさに、「ただごとならぬ人がいる」という一語につきたという。
本書を読んだ人は誰でも、著者が初めて中村久子を知ったときと同じ衝撃と感動を受けるに違いない。それぐらい、中村久子という人物はすごい。わたしも「人間界の奇跡」としか表現のしようがない人だと常々思っており、深く尊敬の念を抱いている。
昭和36年に開催された厚生省主催の身体障害者福祉大会で、宮中参内した久子は天皇皇后両陛下に拝謁した。その時、「アー若い時にあの扶持料というお金をいただかなくて本当によかった」としみじみ思ったという。
お金を貰わなかったがゆえに、胸を張って両陛下の前に出られたというのだ。久子は、「見世物小屋の芸人でも、働かしてもらったということは大きな幸せだった」と述べている。もちろん障害者が国からの援助を受けることは間違ってはいないが、久子はわたしたちに「働く」ことは「幸せ」なことなのだという大切なメッセージを伝えてくれる。
世界に誇るべき日本の「奇跡の人」、中村久子。彼女をより深く知るための決定版!