【人間学】佐藤一斎一日一言
監修:渡邉五郎三郎
出版社:致知出版社
幕末の儒者・佐藤一斎の「一日一言」である。主に一斎の語録集である『言志四録』から選ばれている。
366条を一気に目を通すとまさに壮観だが、一斎がキーワードを操る達人であったことがよくわかる。それも、「忠」と「孝」、「和」と「介」、「知」と「行」、「恕」と「譲」、「苦」と「楽」、「忍」と「敏」、「労」と「逸」といったように主に相反する二つの一文字キーワードを対比させて、自らの思想を示すというスタイルが多い。
たとえば、「忠」と「孝」なら、曾子(そうし)の「君(きみ)に事(つか)えて忠ならざるは、孝に非(あら)ざるなり。戦陣に勇無きは、孝に非ざるなり」との言葉を持ち出す。「君に仕えて忠義を尽くさない者は孝とは言えない。また、戦場に出て勇気のない者は孝とは言えない」という意味だが、これをもって忠と孝は両立しないという見方がある。しかし一斎は、これは俗世間の間違った見方であり、「忠孝両全」というコンセプトを新たに打ち出すのである。キーワードの達人はコンセプトの達人なのである。これは「正」「反」「合」で知られるヘーゲルの弁証法にきわめて近いと思う。
最後に読書についての一言を紹介したい。
「精神を収斂(しゅうれん)して、以て聖賢の書を読み、聖賢の書を読みて、以て精神を収斂する。」である。「心を引き締めて聖人・賢者の書物を読み、聖人・賢者の書物を読んで心を引き締める。これは修養のための読書の心構えである」という意味だ。このことをよく心して、本書をお読みいただきたい。