立命の書「陰隲録」を読む

著者：安岡正篤

出版社：致知出版社

明末の学者である袁了凡が息子に書き与えた『陰隲録』の講義を収めたもの。『陰隲録』に一貫している思想は、人間は自らの道徳的努力によって、運命や宿命を立命に転換していくことができるということだ。
袁了凡という人は徹底的な宿命観に陥っていたが、雲谷禅師という達人によって悟りを開いたという。その悟りとは、「禍福はみな自分より求めないものはない」というのは聖人や賢者の真実の言葉であって、「禍福は人間の力ではどうすることもできぬ天の命ずるところである」というのは世の俗人の論であるということだった。そして、袁了凡は謙虚・積善・改過という道徳的精進によって、自らの運命を開拓し、ゆたかな人生を実現していったのである。
特にわたしが感銘を受けたのは、安岡正篤が本書の序章で「心学」を語った部分である。自分は現象世界のいろいろの問題に時々論及するが、このようなことは浮雲の変化のようなものであるとし、次のように述べる。
「真の目的はその現象の根底であり、本質であるところの道・教えを学ぶことである。心学というものである。言い換えれば人間の根本を培養することである」
心学とは言うまでもなく、陽明学の別名である。わたしは自ら「平成心学」というものを提唱しているが、この「心学とは人間の根本を培養すること」という安岡正篤の言葉に何度も原点を教えられ、励まされてきた。