【ドラッカー】ネクスト・ソサエティ
訳:上田惇生
出版社:ダイヤモンド社
哲人ピーター・ドラッカーの遺作にして最高傑作である。長年のコンサルタントとしての経験から、きわめて現実的であり、かつ実際的である一方、未来社会に対する展望が見事に描かれている。20世紀における「知の巨人」であった彼が、最後にわれわれに21世紀の見取り図を示してくれた。一行読むごとに「そうか、なるほど」と指を鳴らし、「ワクワクしてきたぞ」と知的興奮が呼び起こされる。とにかく本書は面白い!
ドラッカーは本書の冒頭で日本の読者に次のように呼びかけている。「日本では誰もが経済の話をする。だが、日本にとっての最大の問題は社会のほうである」90年代の半ばから、ドラッカーは、急激に変化しつつあるのは、経済ではなく社会のほうであることに気づいたという。
IT革命はその要因の一つにすぎず、人口構造の変化、特に出生率の低下とそれにともなう若年人口の減少が大きな要因だった。IT革命は、一世紀を越えて続いてきた流れの一つの頂点にすぎなかったが、若年人口の減少は、それまでの長い流れの逆転であり、前例のないものだった。
その他にも、雇用の変容、製造業のジレンマ、ビジネスモデルの多様化、コーポレートガバナンスとマネジメントの変貌、起業家精神の高揚、人の主役化、金融サービス業の機器とチャンス、政府の役割の変化、NPOへの期待の増大など、さまざまな逆転現象が起こっている。
本書が言わんとすることは、一つひとつの組織、一人ひとりの成功と失敗にとって、経済よりも社会の変化のほうが重大な意味を持つということである。急激な変化と乱気流の時代にあっては、単なる対応のうまさでは成功は望みえない。企業、NPO,政府機関のいずれであれ、その大小を問わず、大きな流れを知り、基本に従わなければならない個々の変化に振り回されてはならず、大きな流れそのものを機会としなければならない。
その大きな流れこそ、ネクスト・ソサエティの到来である。そして、その二つの特質は「少子高齢化社会」と「知識社会」である。大きな流れに乗った戦略をもってしても成功が保証されるわけではない。しかし、それなくして成功はありえないとドラッカーは説く。
私は、2001年に社長に就任したが、本書と出会って大変なショックを受けた。本書に基づいて経営戦略を定め、『ハートフル・ソサエティ』なるアンサーブックまで上梓した。生涯忘れえぬ一冊である。