【ドラッカー】未来への決断
訳:上田惇生 + 佐々木実智男 + 林正 + 田代正美
出版社:ダイヤモンド社
本書は、マネジメント、情報型組織、経済、社会についての実にさまざまな問題を扱っているが、いずれも見かけは異なるものの、一つの共通するテーマのもとに書かれている。すなわち、元に戻すことのできない、すでに起こった変化を扱っているのだ。したがって、あらゆる組織のエグゼクティブが行動の基礎とすることのできる変化、それどころか、行動の基礎としなければならない変化を扱っている。本書は現実の問題解決に役立つ。
たとえば、本書には同族企業の問題が取り上げられている。世界中において、ほとんどの企業が同族企業である。
同族経営は中小企業に限定されない。世界最大級の企業もある。デュポンは1802年の創業以来、1970年代半ばまでの170年間、同族所有、同族経営のもとに世界最大級の化学会社へと成長した。200年前、主要国の首都に息子たちを配した無名の両替商ロスチャイルド家が所有する金融機関は、今日依然として世界有数の大銀行である。
ところが、マネジメントについての文献と講座のほとんどが、プロの経営者が経営する企業だけを扱っている。同族企業に触れることはほとんどない。もちろん、同族企業と他の企業の間に、研究開発、マーケティング、会計などの仕事で違いがあるわけではない。
しかし経営陣に関しては、同族企業にはいくつかの守るべき重要な留意事項がある。それらを守ることなくしては、繁栄するどころか生き残ることもできない。第1に、同族企業は、一族以外の者と比べて同等の能力をもち、少なくとも同等以上に勤勉に働く者でないかぎり、一族の者を働かせてはならない。
第2に、同じように簡単なこととして、一族の者が何人いようと、また彼らがいかに有能であろうと、トップマネジメントのポストの一つには必ず一族以外の者を充てなければならない。その好例が、専門的な能力が大きな意味をもつ財務や研究開発担当のトップだ。
第3に、同族企業は、重要な地位に一族以外の者を充てることをためらってはならない。生産、マーケティング、財務、研究開発、人事に必要な知識や経験はあまりに膨大である。
この3つの原則を忠実に守っても、問題は起こる。特にトップの継承をめぐって起こる。一族の事情が企業の事情に反する。したがって第四に、継承の問題について適切な仲裁人を一族の外に見つけておかなければならない。
本書は、特に同族企業の関係者にとってのバイブルである。