【人間学】君よ、志を持って生きてみないか
著者:石川洋
出版社:致知出版社
26年という短い生涯を激動の時代に燃やした幕末の志士・橋本左内。彼が13歳から筆を執り15歳で書き上げた『啓発録』は、わが国だけでなく世界に類を見ない内容と分析力を持つもつものである。著者は、20数年間、熱い思いをもって『啓発録』に向き合ってきたという。
幕末に書かれた『啓発録』には、21世紀に生きる日本人が教訓とすべきものが多く含まれている。それは第一に、『啓発録』が人間形成における基本的な「節目」をしっかりおさえた、一つの人生の貴重な記録であるからに他ならない。
『論語』を出典とする「啓発」という言葉は、左内においては「青少年期における人生の自覚」としての節目を意味するのである。啓発とは、青少年期を迎えた子どもたちの人間形成における自覚教育のうえで、とても大きな意義を持つものだ。左内の場合、八歳にして朱子学を学びながら、自分自身の志や生き方をしっかりとつくり上げており、『啓発録』からは、左内が「人生の自覚」を得るに至るまでの心の軌跡や葛藤が読み取れる。
最後に、左内が処刑されるまさにその時、無念の涙を流し、声なく嗚咽したというくだりには胸を打たれた。左内の命を奪った安政の大獄は、かの吉田松陰の生涯をも終わらせている。左内は松陰よりも4歳年下であった。大きな志を胸に抱きながらも無念のうちに白刃の露と消えた彼らの魂のメッセージを決して忘れてはならない。