【人間学】吉田松陰一日一言
川口雅昭編
出版社:致知出版社
人類史上の奇跡とまで呼ばれた明治維新のスイッチャーである吉田松陰の「一日一言」である。通読すると、佐藤一斎と同じく、松陰がコンセプトの達人であることがよくわかる。概念の定義において実に優れている。
たとえば、「仁義同根」という条では、仁と義が同じ根から生じたものであり、対象によって名前が違っているだけであると述べる。つまり、父子の間では仁といい、君臣の間では義という。それらの実際は、一つのまごこころから出たものであるというのだ。
その他にも、「気」「心」「情」「徳」「誠」「恥」「勇」「志」などの数多くの一文字によるハートフル・キーワードを見事に定義づけている。思えば、かの孔子こそは「仁義礼智信」に代表されるように偉大なコンセプトの編集者であり、キーワードの達人であった。だから、彼らの言葉はシンプルにして深く、そこに言霊が宿るのである。
また、「松下陋村(しょうかろうそん)と雖(いえど)も、誓って神国の幹とならん」という言葉が好きだ。松本村はひなびた一寒村であるが、必ずや日本国の幹となるというのである。この心意気。地方に在って、志ある者は松陰の気概を見習いたいものである。
最後に、読書についての一言を紹介したい。
「読書最も能(よ)く人を移す。畏(おそ)るべきかな書や。」である。「読書というものは、最もよく人の心を変えるものである。書物というものは何と恐るべきものだなあ」という意味だ。このことを心して、本書をお読みいただきたい。