【人間学】中江藤樹 人生百訓
著者:中江彰
出版社:致知出版社
「近江聖人」とまで呼ばれた中江藤樹。彼は、まるで隠者のごとく40余年のすこぶる短い人生を送った。それにもかかわらず、今なお多くの人から親しまれる理由はどこにあるのか。著者は、藤樹を学び、また人に藤樹を語るに際して、いつもこのことを問い続けたという。
また、藤樹が「日本陽明学の祖」ということから「知行合一」を説き、知識よりも実行を重んじたという偏ったイメージが先行していることに危惧の念を抱いたそうだ。
このような著者の問いに答え、危惧を払拭するために本書は生まれた。藤樹の主著『翁問答』や『鑑草(かがみぐさ)』をはじめ、さまざまな書に出てくる珠玉の言葉を選び出している。本書に掲げられた百訓は、400年前の古典としての知識ではなく、混迷の世を生きる現代人の大きな指針になるものばかりだ。
特にわたしが心を惹かれたのは、藤樹の和歌である。藤樹の和歌は素晴らしい。しかも、わたしの大好きな月を詠んだものが多いのだ。
「ふしおがむ社(やしろ)の神は月なれや
心の水のすめばうつれる」
「いかで我(わが)こころの月をあらわして
やみにまどえる人をてらさん」
「偽(いつわり)のなき身なりせば古里の
月の光もさやかならまし」
この他にも、藤樹は月の歌を詠んでいる。「こころの月」とは彼が生涯追及した「明徳」に他ならない。藤樹は、夜空の月に人間の心の理想を重ね合わせていたのである。