【人間学】幸田露伴の語録に学ぶ自己修養法
著者:渡部昇一
出版社:致知出版社
著者は大学3年のときに、恩師のすすめで幸田露伴の『努力論』を購入して読んでみたそうだ。一読してみて、「これは!」という感じがあり、「これこそ一生座右に置ける本だ」と直観したという。
それからのち、数え切れないほど読み返したが、何度読んでも裏切られることはなかった。そして、この本がなければ、物の観察の仕方にせよ、考え方にせよ、ずいぶん自分が違っていただろうなとさえ思うほど強い影響を受けたというのである。
本書は、さまざまな露伴の著作の中から、自己を修養すること、つまり自分を高めることにとって参考になる言葉を集めたものである。だが、何と言っても、『努力論』の中に語られる露伴の「幸福三説」を知ることに本書を読む醍醐味はある。
「幸福三説」とは、幸福を引き寄せる3つの工夫である。第一は「惜福」で、これは福を使い尽さないこと。第二は「分福」で、これは恵まれた福を分かつこと。
そして第三は、「植福」である。リンゴの木が花を咲かせ、実をつけているうちに、それを食べずに種を蒔き、接ぎ木をし、新しいリンゴの木を育てておく。その実を自分の子孫が食べる。これが植福である。一人の植福がどれだけ社会全体を幸福にするか計り知れない。植福において、個人と社会の福がつながるのだ。露伴の幸福論は、かくのごとくスケールが大きい。達人の幸福論なのである。